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第37話

信号が青に変わり横断歩道を渡ろうとしたら、 「湊、危ない」 陽斗に腕を強く引っ張られた。その直後信号無視の自転車がものすごいスピードで目の前を通過していった。 「ありがとう」 「あれ侑大だ」 「え!?ぜんぜん気付かなかった」 しばらくして自転車が急ブレーキをかけて戻って来た。陽斗だって気付いたんだと思う。 「陽斗、行こう。信号が変わるから」 今度は僕が陽斗の手を引っ張る番だった。 「侑大に何か言われたのか?」 「言われていない」 慌てて首を横に振った。 「俺に隠し事?」 陽斗の表情が変わった。 「あとで話すから、だから……」 「分かった」 ぶっきらぼうな言い方をすると、 「侑大、危ないだろ」 声を荒げて侑大を睨み付けた。 「急いでいたんだからしょうがないだろう」 チクチクと刺のように刺さる侑大の視線が痛い。 半年くらい前に新と仕事帰りに立ち寄ったカフェで、侑大とすずかさんが楽しそうに話しをしている姿を偶然見掛けた。いずれは家族になるんだしとさほど気にも止めなかったけど、その後も何度も二人が一緒にいるのを見掛けて、もしかして侑大は陽斗に隠れて、兄の許嫁と付き合っているのかなと思うようになった。侑大は付き合っても長続きしないと陽斗が話していた。 僕が喋らなくてもすずかさんと交際していることはいつかはバレるのに。

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