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第38話
湊は兄さんが好きなんだろう?兄さんが傷付く姿は見たくないよな。あんたが黙っていれば誰も傷付かない。もし兄さんにチクったりしたらそのときは湊が兄さんのことを好きだって言いつけてやるから。今まで築き上げてきた信頼関係が一瞬で壊れる。いいの?もう二度と兄さんの側にいれなくなるよ。侑大の脅しに僕は「はい」としか答えられなかった。それしか選択肢はなかった。
今思えばなんておろかな選択をしたんだろう。
「ちょうど良かった。湊に用があったんだ」
自転車を停めて侑大が近付いてきた。
「湊はお前には用はない」
「俺があるんだよ。兄さんには関係ない。どいて、邪魔」
僕の前に立ちふさがった陽斗の体を押しのける侑大。
「俺の先輩がさ、湊に会いたいんだって。顔がタイプなんだって。電話番号を教えておいたから。名前はタケルさん。絶対に無視すんなよ」
「侑大、勝手に決めるな。それと湊はお前より年上なんだから呼び捨てにするな」
「立場は俺のほうが上じゃん。だって誰もソイツが一族だって認めてないでしょう?捨て子で養子の癖に。違う?」
侑大が余裕の笑みを浮かべた。
温かな湯船に体をゆっくりと沈めた。朝からいろんなことがありすぎて疲れた。眠くて欠伸しか出ない。すぐにでも寝たい気分だった。体が温まったら早めに上がろう。そんなことを考えていたらガラっと浴室のドアが開いて全裸の陽斗が入ってきたから驚いた。
「昨日一緒に風呂に入る約束をしたよね?」
「そうだっけ」
「そうだよ。米をといで炊飯器の予約をしたら行くから先に入っていてと言ったはずだよ」
「ごめん、半分寝てたからよく覚えてない」
笑って誤魔化した。
シャワーで軽く体を洗うと陽斗が湯船に入ってきた。
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