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第39話

「狭いから右か左、どっちかに寄って」 狭いならなんでわざわざ一緒に入る必要があるんだろう。陽斗に言ったら間違いなく不機嫌になる。 「陽斗何?」 向かい合う形で腰を下ろすと彼の顔がグイグイと近づいてきて。首の辺りや背中のあたりをじっと見つめられた。肌に触れる鼻息がくすぐったくて思わず身を捩ると、 「湊って敏感だよね」 くすりと笑われた。 「半年前かな?仕事から帰ってきた湊の様子がおかしかったから、新とかほりさんに会社で何かあったのか聞いたんだ。そのあとだよ。すずかさんと侑大が俺に隠れて付き合っていると匿名の電話が店にかかってきたんだ。侑大が湊を脅して口止めを強要していたとはな。許せない」 「陽斗、もう過ぎたことだから」 「野放しにしたらつけあがるだけだ」 陽斗が語気を強めた。そのあと何かに気付きじっと右耳の下あたりを見つめられた。 「なんで昨日は気付かなかったんだ」 独り言を口にすると耳の下を指の腹でそっと撫でられた。その時、電流が走ったように体がびくっと震えた。 「顔が赤いけど」 「気のせいです」 「本当に?」 「陽斗がじろじろ見るから」 プイとそっぽを向くと、 「分かった。あんまり見ないようにする。だから許して。でも湊の怒った顔が可愛いからついつい構いたくなるんだよな」 愉しそうに陽斗が笑いだした。

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