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第42話

会社が近付くにつれて足取りが急に重くなってきた。気持ちもどんよりと曇って来た。 陽斗と両想いになれたから僕のことは諦めて。はい、そうですか。分かりました。そう簡単に僕のことを諦めるような新ではない。告白されたけど新とは付き合えない。ごめんなさいをすんなりと受け入れる訳がない。逆に新を傷付けてしまうことになる。誰よりも新のことを分かっているはずなのに。分かっていたつもりでいた自分が本当に情けない。どうしよう。どんな顔で会えばいい?どう話しを切り出しらいい? エレベーターを待つ間ため息をばかりついていたら、 「どうした湊、さっきからため息ばかりついて。悩み事?」 新に声を掛けられたからどきりとした。 「おはよう七海」 「おはようございます」 今日も明るい笑顔で同僚に挨拶する新。いつも機嫌が良くてムスっとしていないから好印象を持たれる。物腰の柔らかさと穏やかな雰囲気も不思議と人を引き寄せるのかも知れない。他人を尊重し 損得勘定なしに誰とでも分け隔てなく接するため誰とも気持ちよくコミュニケーションが取れる。まさに経営者の器だ。それに比べてうちの息子たちときたら。社長が青色吐息をついていたことをふと思い出した。 「湊って何回も呼んだんだよ」 「ごめん、気づかなかった」 「六時ちょうどに陽斗からメールが送信されてきたんだ」 一瞬心臓が止まりそうになった。 「弁当間違って俺の分も作ったから食べてくれって」 良かった。ほっとして胸を撫で下ろしたら、 「何が良かったって?」 「な、なんでもない」 慌てて頚を横に振った。心の中までも見抜かれているようでそれが怖かった。 「ちょっとそこの二人!朝からラブラブじゃないの」 「川瀬次長こそ朝からラブラブで羨ましいです。同伴出勤ですか?」 川瀬さんの隣に松永さんが立っていた。 「たまたま偶然バスが一緒だっただけよ。それよりも湊。良かったわね」 「川瀬次長、その話しはここでは……」 陽斗とすずかさんの話しだとすぐに分かった。
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