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第46話
「その写真、懐かしいだろ?俺が一番荒れていた時だ。牛乳多め、ぬるめのカフェオレどうぞ」
新からマグカップを渡された。寝耳に水で、驚いて声も出なかった。
「兄弟なのに一緒に暮らせない。学区が違うから中学校も別々で近くにいるのにすぐに会えない。陽斗ばかりずるい、いつもイライラしていた。高校だけは絶対に湊と一緒がいい、俺のわがままを父さんたちはなにも言わず聞いてくれた」
吉人さんの従兄弟が学校法人の理事長をしている関係で、陽斗は七海家の本家筋の子息としてそこの高校に嫌でも入学するしかなかった。新も本当ならそこに入学しないといけなかったけど、凱さんが息子は行きたい高校があると差し障りのないように丁重に断った。
「仏頂面の陽斗の面白くなさそうな顔をみた時、思わず小さなガッツポーズをしたんだ。湊と一緒に暮らせなくても学校ではずっと一緒にいれるからそれが嬉しかった。学習旅行と林間学校と修学旅行はいつも同じ班で寝るときも同じ部屋で楽しかったな。布団も隣同士だったから湊の顔を間近で見れたし、寝顔が可愛くていつまでも見ていられたし、俺ばかりドキドキしてなかなか寝れなかったんだ」
お金持ちの家に生まれても家庭には恵まれなかった陽斗。僕と出会ったときおでこに大きなたんこぶがあって、手首にもカッターで傷付けた痕があった。陽斗に言われたのは、僕が陽斗にとっての精神安定剤だということ。僕が側にいれば自分を傷付けずに済む。陽斗を守らなきゃ、僕が陽斗を絶対に幸せにするんだ子供心にそう誓った。大きくなるにつれ、守らなきゃ、だったのが、気付けばいつの間にか逆になっていた。今では陽斗に守られてばかりいる。陽斗の役に立ちたい。それで恩返しができればいい。
でもそれもすべて新がずっと我慢してくれたから。一歩引いて陽斗に譲ってくれていたから。陽斗に夢中で、片思いして、まわりが見えなくなっていた。新の気持ちを思えば浮かれている場合じゃなかったんだ。
「ごめんね、新」
「謝るな。湊は悪くない。今もこうして一緒にいてくれるから、それだけで俺すごく幸せだから」
微笑みながら僕の顔を覗き込むと、頭をぽんぽんと優しく撫でてくれた。
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