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第52話

「すぐにでも引っ越せるように家具家電付きの賃貸にしたんだ。今月末で契約が切れるから実家に帰ろうと思っていたんだけど」 「なにも一緒に暮らせばいいだろ?会社からは遠くなるけど湊と一緒に出勤出来るしいいんじゃないか」 「そうなんだけど、絢斗さんに言っちゃったしな。やっと一緒に暮らせるだねってすごく喜んでくれたのに悲しませることになる」 「待ってろって言ったろ?」 「言ったよ。でもまさかこんなことになるなんて思わなかったから。一気にことが動くなんて誰が予想できた?」 新と陽斗とふと目があった。 「自分のなかでは答えは出ているんだ。でも少しだけ待ってほしい。駄目かな」 「俺はいいよ。陽斗は?」 「俺もいいよ」 二人はとても大切な幼馴染みだから。気心も知れているし、一番しんどかった時になにも言わずに側にいてくれた。一緒に泣いて、一緒に笑って、一緒に歩いていこう。子供のころの約束なんてとうの昔に忘れていると思うけど、だからこそ二人を傷付けたくない。 「泊まらずに帰るのか?」 夕御飯の後片付けをして帰り支度をはじめた僕たちに新が寂しそうな視線を向けた。 「いや、だってさ」 「ベットに湊が寝て、俺と陽斗が同じ布団で寝れば寝れないことはないと思う。かなり狭いけど。俺と一緒に寝るのは嫌だと思うけど」 「嫌じゃないけど……」 そこで言葉を濁す陽斗。 「寝相が悪かったのは子供のときだけ。もう俺大人だし」 「本当か?人の顔を枕代わりにしたり足置きにしていた癖に」 耳の痛いことを言われ新はなにも言い返すことが出来なかった。
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