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第54話
「ごめん、陽斗。新より僕のほうが寝相が悪くて……」
かすかに汗の浮いたその額に触れると、泣きそうな声で小さく呟いた。指に触れる陽斗の肌の温もり。
最初に会ったとき、一ヶ月違いのお兄ちゃんが出来たってすごく喜んでくれた。
彼と離れるのが怖くて。離れたくなくて。
この温もりをなくしたくなくて。
相手は同じ男で、立場も違う、住んでいる世界も違う。そんなことは分かっているのに、分かっていてもずっと一緒にいたいと願ってしまった。
新も、陽斗も、好きで好きで、離れたくない。失いたくない。
陽斗に触れている指先がふっと溶けたような感覚がして。
「ん……」
吐息のような微かな声がしたかと思うと、閉じていた目蓋がふっと開き、澄んだ黒目がちの瞳が現れた。
「あ……」
びっくりして手を離すと、二度、三度と目をぱちぱちと瞬かせた陽斗と視線が絡んだ。目が合うと、一瞬戸惑った様子を見せたあと、安堵したように和らいだ。
「びっくりした。目が覚めたら湊がいるんだもの」
「ごめん、陽斗。ベットから落ちたみたいで……そ、その……どこも痛くない?」
「ちょうどトイレに行っていたからいなかったんだよ。湊を受け止めたのは新だよ」
「そうなの?」
「そう。だから仏頂面している新の頭を撫でてやれ」
陽斗に言われて体の向きを変えた。
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