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第55話

「誰が仏頂面っているって。この前泊まりに来たときもベットから落ちたから。シングルだから狭いだよ、そのベット」 「ぜんぜん知らなかった。そんなことがあったなんて覚えていない」 「言うつもりもなかったし」 ちょうどそのとき目覚まし時計のアラームが鳴った。 「着替え以外に必要なものはない?」 「ないと思う」 「思い出したときは連絡ちょうだい」 「分かった」 頷くと、陽斗は新のほうを向いた。 「新、俺がいないからって湊を襲うなよ」 「おまえと一緒にするな」 新が困ったように苦笑いを浮かべた。 「湊、一回抱き締めてもいい?嫌なら無理強いはしないけど」 「別にいいけど」 逞しい腕が遠慮がちに肩に回ってきて。そっと抱き寄せられた。 「車の鍵を忘れた」 ガラッと玄関のドアが開いて陽斗がドタドタと入ってきたから驚いた。慌てて腕を突っぱねて新の体を押し退けた。 「椅子のところに落ちていたから冷蔵庫のフックに掛けておいたよ」 「冷蔵庫?どれだ?あぁ、これか。ありがとう新」 「慌てて運転するなよ。朝早いからって誰もいないかってスピードを出しすぎるなよ。事故ったらもともこうもないから」 「分かってる」 陽斗が爽やかな笑顔で手を振りながら出掛けていった。あらかじめ家の鍵は寝るときに新が陽斗に渡しておいた。
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