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第56話

「湊がまた落ちてこないかなって思っていたから、本当に落ちてきてくれてすごく嬉しかった」 「ごめんね、新。重かったよね?」 「ぜんぜん」 首を横に振る新。 「目が覚めたら湊が隣にいたから、夢でも見ているんじゃないかって。信じられなくてね。こうして湊が腕のなかにいることもいまだに信じられないんだ。やっぱり俺、湊が好きだ」 爽やかな笑顔が眩しくて。二度寝しようと思っていたけど、ドキドキしてしまい寝れなくなってしまった。 「また何か忘れたって帰ってくるかも知れないな。そのときはそのときで考えればいいか。いまは湊との二人きりの時間のほうが大事だから」 再び腕が肩に回ってきて。今度はぎゅっと抱き締められた。 ごめん。残業になりそうだから先に帰ってていいよ。新にメールをしたのは二時間も前のことだ。終わったよとメールをしたら、カフェにいるからおいでとすぐに返信がきた。 急いで向かうと店内はかなり混雑していた。 「私は白いシャツのほうかな」 「私はマウンテンパーカーのほう」 「彼女いると思う?」 「当然いるでしょう。あれだけカッコいいんだもの」 女性客の熱い視線の先にいたのはカウンターの席に並んで座る陽斗と新だった。 二人とも長身でモデル並みにカッコいいし、スタイルの良さが際立つコ―デでかなり目立っていた。新はマウンテンパーカーとカーゴパンツを組み合わせた、ストリート感漂うカジュアルコーデで、陽斗は白いシャツに黒のパンツという清潔感漂うラフなコ―デだった。 顔も十人並みだし背も小さいし、なんの取り柄もないこの僕が二人の隣にいて不釣り合いなんじゃないか、急に不安になった。今なら二人に気付かれていない。帰ろうとしたら、 「湊、お疲れ」 「遅くまで仕事をやりすぎだ」 陽斗と新に声を掛けられた。 「もしかして気付いていないと思った?」 「甘いな」 「ごめん、遅くなって」 なんでもお見通しの二人の目を欺くことはやはり無理だった。
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