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第64話

「仕事が休みだったらな。昨夜の続きが出来たのにな。残念」 「我が儘を言わないんだ。湊がゆでたこみたくなって困っているだろ?」 陽斗が苦笑いを浮かべた。 「ごめんね、寝落ちして……」 「いちいち気にするな。湊が疲れているを分かっているのに無理をさせてしまって。俺のほうこそごめんな。新、黙っていないで何か言ったらどうだ?」 「言いたいことは全部陽斗が言ってくれたから」 新もぎゅっとしがみついてきた。 「会社まで送っていくよ。今から急いで行ってもバスに間に合わないだろう」 「助かるよ。ありがとう。湊、用意出来た?」 「ちょっと待ってて」 起きたら髪がぴょんぴょんと跳ねて大変なことになっていた。 「陽斗が引っ付き虫くっつき虫で湊にねっぱっているから髪がくしゃくしゃになるんだろう?」 「俺のせいかよ。そういう新だって湊から離れなかった癖に。車をエントランスに回しておくから先に行って待っているから」 陽斗が家を出てから数分後。家を出ようとしたら電話がけたたましく鳴り出した。陽斗また下駄箱のところに携帯を忘れている。陽斗に渡そうと携帯を持ち上げた。 一度目はすぐ切れたけど、すぐにまた着信音が鳴り出した。 「誰?」 「知らない番号から」 携帯の画面を新に見せた。 「その番号杏南さんのだ。前に絢斗さんに嫌がらせの電話が何回かあってね、父さんが代わりに出て一喝したら杏南さんだったんだ。確か今、地中海豪華クルーズ船旅行に行ってるはずだよ」 「そうなんだ。旅行中だなんて全然知らなかった」 「向こうが俺たちを毛嫌いして一切の連絡を絶っているから知らなくて当然だよ。どうせ陽斗が婚約破棄した原因を知って怒りに任せて電話を掛けてきたんだろう。構わなくていい」 「分かった」 携帯をジャケットのポケットしまった。
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