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第65話
「本当にしつこい人だ。携帯をスピーカーにしていいよ」
陽斗に言われた通りにすると、
ーゆーくんとまーくんの結婚相手は私がもう決めてるのよ。なのに何?あなたのお古なんていらないわよ。うちのゆーくんがかわいそうー
耳にがんがんと響く金切り声のあとに泣き声が聞こえてきた。
ーちょっと聞いてるの?ー
「はい、はい、聞いてますよ」
いつものことなのかハンドルを握る陽斗はさほど気にする素振りを見せなかった。
ーしかもお古、妊娠しているって言うじゃないの。本当はあなたの子じゃないの?どういう神経をしているのよ。私に対する嫌がらせのつもりなの?ー
「あの、お古ではなくすずかさんという名前があるんですよ」
ー私は認めませんからね。あ、そっか。それとも新との子とか。あなたは男が好きだものね。お古を抱けないものね。そうだったわー
陽斗を馬鹿にするように鼻でせせら笑う杏南さん。
「本人の前で根も葉もないことをよく言えるよな」
新がため息をついた。
「酔っ払いに何を言っても無駄だ。すずかさんにこれを聞かせたらどんな反応するか。こんな人が姑になるんだ、考え直した方がいいって助言してやろうかな。連絡先知らないけど」
「嘘だろ。婚約していたのに連絡先を交換していなかったのか?」
「交換はしたよ。結納はどうする?両家への挨拶はどうする?何度もLINEをしたけど既読スルーされ、着信拒否され、しまいには電話が繋がらなくなった。彼女は俺より侑大に夢中だったんだ。そうなるよね。別に気にしてないよ。だって好きでもない人と結婚しなくて済んだから。俺は湊が隣にいればそれでいいんだ。新も側にいてくれるから」
陽斗はあっけらかんとしていた。
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