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第67話
「杏南さんに執拗に嫌がらせをされて会社にいれなくなってそれで辞めたんよ。杏南さん自分のことは棚にあげて人前でネチネチと絢斗さんに嫌味を言って、無理難題押し付けて。社長夫人だからって何をしてもいい訳ないだろ?たいした用もないのに絢斗さんをいじめるためだけにしょうちゅうコビヤマに来ていたそうだ。経営に口を出しては凱さんを困らせ、吉人さんの秘書を顎でこき使う。吉人さんはいつも通り黙りで見て見ぬふり。絢斗さんが辞めたあとはパタリと来なくなって、暇潰しにホスト通いをはじめたんだよ。吉人さんに構ってもらえないから絢斗さんをいじめて反応を見て楽しんでいたんだろう。どうした新?」
「噂をすれば影。社長だ」
「ずいぶんと早い出勤だな」
吉人さんは親子ほど年の離れた若い女性と一緒だった。腕を組んで体を密着させて店に入っていった。二人が親密な間柄だということは安易に予想することが出来た。女性は初めて見る人だった。いや、女性とはどこかで会っている。どこだっけ?うんうんと唸っていると、
「湊、大丈夫?」
陽斗と新に心配されてしまった。
吉人さんは上下黒ぽいカジュアルな服装だった。
コンビニエンスストアの隣はビジネスホテルだ。
「あんな人の血を引いているかと思うと恥ずかしいよ」
陽斗がボツりと漏らした。
「陽斗は陽斗だろ?親子の縁を切って社長とはもう赤の他人だろ?」
赤の他人なので吉人さんの遺産はいらない。会社も侑大が継ぐ。二度と敷居を跨がない。杏南さんに一筆書かせられ家から追い出された陽斗。僕を連れて頼ったのは母方の祖父母だった。
「新、挨拶をしてこよう。湊はここにいて。すぐに戻るから」
そう言うと車から下りる陽斗。なんで俺もなのと言いながらも素直に従う新。仲良く手を繋いで店内に入っていった。
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