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第73話

「その女性の夫が妻に色仕掛けで社長に近付くように仕向けて社外秘の金型のデーターを持ち出させたんじゃないか、取締役会で問題になってるわ」 「でもなぜ湊に根も葉もないことを言ったんですか?椿原さんといいあの女性といい、無関係な湊を目の敵にするのか許せない」 「精神的にかなりダメージを受けていた時に、悪意を持った誰かが女性の耳に囁いたんじゃない?」 「なるほど」 「それよりもなんで朝の七時に三人であんなところにいたの?」 「ネットって怖いですよね。いちいち投稿しなくてもいいのに」 「目の前にモデルかって思うくらい水もしたたるカッコいいイケメンがいるのよ、それも二人も。撮影を止める術はないわ。目の保養にもなるし」 熱弁をふるう川瀬さんに新も開いた口が塞がらなかったみたいだった。 「そろそろ時間なので外回りに行ってきます」 椅子から立ち上がろうとしたら、 「ちょっと待った!」 川瀬さんに腕を掴まれた。 「今度はなんですか?」 「杏南さんが今どこにいるか教えてほしいの。妹をお古呼ばわりされて腹の虫がおさまらないのよ」 「押しと地中海豪華クルーズの旅の真っ最中です。いま、海の上です。かなり酔っていたので記憶がないかも知れませんよ」 「また家族を放置して旅行に行ってるの?いい身分ね」 「だから吉人さんも家には帰らず好き勝手にしているのでしょう。菅沼さんとお手伝いさんに侑大たちのことを丸投げして」 陽斗の携帯にはボイスレコーダーのアプリが入っている。僕たちのことを馬鹿にするような言い方をする杏南さん。酔っぱらっていて記憶がないとすぐに惚けるから、電話の内容を録音して証拠として残すようになった。僕たちと別れたあとすぐに川瀬さんにメールを送ったみたいだった。

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