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第74話

「湊、綺麗になったと思わない?」 「何が言いたいんですか?」 「分かっている癖に」 ふふんと鼻歌を口ずさむ川瀬さん。 「今度四人で飲みに行かない?お祝いに奢るから」 「川瀬次長、侑大とすずかさんのお祝いのほうが先じゃないですか?」 「う~ん、そうなんだけどねぇ」 歯切れが悪い川瀬さん。 「侑大まだ両親に一度も挨拶に来てないのよ。すずかに聞いてものらりくらりとはぐらかすし。もしかしたら侑大と連絡が取れない状態なのかも」 「侑大にとってはただの暇潰し。遊びだったんでしょうね」 「新と陽斗とはえらい違いだわ。なんで兄弟なのにこうも違うのよ」 「俺ら湊しか見てないから。湊以外は興味ないし」 「しつこいって言われない?」 「さぁ、どうでしょうね。飲みに行く件は、湊と陽斗に聞いておきます」 川瀬さんに軽く会釈してミーティングルームを出る新。 「桜井さん電話がさっきから鳴っているみたいだけど出なくていいの?」 相沢さんに心配そうに聞かれた。 080から始まるこの着信番号はおそらく杏南さんのだ。陽斗に構ってもらえず今度は僕のところに掛けてきたんだろう。無視していればそのうち諦めて掛けてこないと思ったけど。十分おきにしつこく何度も掛けてくる。新は外回りに行ってるし、松永さんに頼む?いや、駄目だ。凱さんがまたぶすくれる。月次決算書今日のうちにまとめようと思ったのに。また残業になる。着信拒否にしようと携帯を持ち上げたとき、 「湊どうしたの?」 川瀬さんに不意に声を掛けられたからびっくりして携帯を落としそうになった。

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