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第80話
「あのね、新」
「どうした?」
「なんでもない」
首を横に振ったら、
「なんでもない、じゃないだろ?どんな小さなことでも話してほしい。陽斗には言えるのに俺には遠慮して言えない?」
「そういう訳じゃないの。ごめんね新。平沢さん、僕が副社長の息子だってことを知ってたから」
「先月末から精神疾患で休職中なのになんで知ってるんだろう」
「やっぱり辞めた訳じゃないんだ」
「誰が言ったの辞めたって」
「もしかしたら部署が違うから勘違いをしたのかも」
「まわりに聞けば休職中だってすぐに分かるよ。だって平沢先輩はどこにいても目立つ人だから」
「そうなんだ」
「湊は陽斗しか眼中になかったからね。他の人には興味がないか。聞くだけ無駄だったね」
「そんなことないよ。新のことだってちゃんと見てた」
「はい、はい」
新が愉しそうに笑い出した。さっきまで怖くてぶるぶると震えていたのに。気付いたら一緒に笑っていた。
エレベーターに乗り込むとあっという間に一階に到着した。
「新、下ろして」
「なんで?」
「いちいち聞かなくても分かっている癖に。新の意地悪」
頬を膨らませて睨むと、
「怒った顔も可愛いね」
くくくと笑う新。全然効果がなかった。
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