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第81話
会社を出ると、胸の前で腕を組みむっつりとした表情を浮かべる陽斗がイライラしながら待っていた。
「新、もしかして喧嘩を売ってる?」
「うん。いいだろう。羨ましいだろう」
陽斗に見せびらかすようにくるっと一回転する新。
「ちょっと新」
僕を下ろす気などさらさらない新。
僕をおんぶしたまま陽斗に捕まらないように華麗な身のこなしで逃げる新。振り落とされないように無我夢中で首にしがみついた。
「み、湊……苦しい……」
「あ、ごめん新」
慌てて腕の力を緩めた。
「湊を独り占めしようとするからだよ」
「陽斗にだけは言われたくない」
「その台詞そっくり返す」
ほんの些細なことでまた喧嘩をはじめる二人。仲がいいんだか悪いんだかよく分からない。
「ちょっと二人とも。喧嘩はだめだって」
下ろしてもらい仲裁に入ろうとしたら、
「本当に仲がいいですね」
相沢さんに声を掛けられた。イライラしている様子で、爪が手のひらに食い込むほどに拳をぎゅっと握りしめていた。
「喧嘩するほど仲がいいとよく言いますからね」
陽斗と新がにこりと微笑んだ。
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