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第84話

「あの陽斗、新、僕の箸がないんだけど……」 「利き手の手首を捻って痛いんだろ?なるべく動かさないようにしてしばらく様子をみるようにって医者に言われただろ?もう忘れた?」 「うん、言われた。忘れていないよ」 「なんのために俺と新がいると思う?」  にっこりと満面の笑みを浮かべる陽斗と新。 「でも……」 ちらちらと凱さんと絢斗さんの顔を見ると、 「俺たちのことは気にすることはない」 陽斗と同じようににっこりと微笑んだ。 二人の前なのに。という恥ずかしい気持ちも空腹には勝てなくて。大人しく陽斗と新にかわりばんこにご飯を食べさてもらった。 「湊、明日は休みなさい」 「でも凱さん」 「全部話しを聞いた訳ではないけど、絢斗が会社を辞めることになったときと状況が似ているんだよ。今湊を失ったらコビヤマにとってかなりの痛手だ。陽斗と同じように川瀬次長にも怒られる。普段おとなしい人が怒ると本当に怖いんだよ」 「それって俺のこと?」 絢斗さんがボソリと呟いた。 「誰もきみのことは言ってないよ」 あわてて否定する凱さん。 「あらあら寝ちゃったね」 「食べながら寝落ちするとはな……」 絢斗さんと凱さんが僕の顔を覗き込むとくすりと笑った。 「毎日残業でただでさえ疲れているのに、あれだけ怖い目に遭ったんです」 僕はいつの間にか寝てしまっていた。新がすぐに布団を敷いてくれて、陽斗が僕をお姫様抱っこして布団の上のそっと寝かせてくれた。

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