85 / 130

第85話

熱を出すなんていつ以来だろう。なんとなく頭がフラフラする。身体が怠くて指一本を動かすのも億劫だった。 新にも会社を休んで看病をすると言われ、陽斗にも店を休んで看病すると言われ、これじゃあいつまでも埒があかない。じゃんけんでどっちが休むか決めようなんて言い出して。朝から大変だった。 フフンと機嫌よく鼻唄を歌い洗濯物を干しているのは絢斗さんだ。 「まさか息子の世話を焼く日が来るとはね。たまたま休みだったことに感謝、理解ある旦那と息子に感謝、陽斗さんにも感謝」 かなりテンションが高い。 「風邪をうつしたらごめんなさい」 「そのときはそのときだよ。気にしないの。いまはゆっくりと休んで。夜になれば構ってほしい人たちが帰ってくるんだし。賑やか過ぎて寝れなくなるよ。寝れるときに寝ておかないと」 「絢斗さんありがとう」 携帯がさっきから鳴りっぱなしだ。 「誰だよ、昨日杏南さんに喧嘩を売るようなメールをしたの。湊はなにもしてないのに。文句を言う相手が違うのに。どう説明すれば分かってもらえるのかな」 はぁ~とため息をつく絢斗さん。 「それはそうとお昼用にお粥を作っておいたから湊に余計なものと変なものを食べさせるなって。ちょっとひどくない?俺だってお粥くらい作れるのに。陽斗さんって本当に過保護だよね。湊がいつまでたっても大人になれないって分かってるのかな?」 「すみません今だに粉しか飲めなくて」 申し訳なさそうに口にすると、 「ごめんね、そういう意味で言ったんじゃないんだ。俺も二十代の頃は錠剤が苦手で粉薬しか飲めなかったから。やっぱり似た者親子だね俺たち」 絢斗さんが嬉しそうに笑った。

ともだちにシェアしよう!