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第92話
「一回ハグさせてもらっていい?」
新がゴソゴソと布団に潜り込んできた。
「癒しをチャージさせてほしいんだ。俺何も悪いことをしていないのに川瀬さんにみっちり油を絞られて、土居さんたち生産管理課の女子社員にも手ひどく怒られて、朝から大変だったんだ」
深いため息をつく新。
「ごめんね熱を出して。おっちょこちょいだから尻餅をついてこうなったし」
湿布が貼ってある手首を掲げた。
「熱を出したのもそうなったのも湊が悪い訳じゃないだろ?悪いのは平沢先輩だ。だから気にするな」
「うん、ありがとう新」
新の胸元に顔を寄せると、逞しい腕がまわってきて。そっと静かに抱き締められた。
「湊の匂いが好きなんだ。すごく落ち着くから」
鼻を首に近付けてきて。クンクンと匂いを嗅がれた。
「新、くすぐったい」
「くすぐってないだろ?まるで火の玉を抱っこしているみたいに体が熱い。疲れが溜まりにたまってそれで熱が出たのかもしれない。陽斗も言ってたけど大人しく寝てろ。俺、大人だし、悪戯はしないから安心しろ」
陽斗は絢斗さんを自宅まで送っていった。凱さんに飲酒運転をさせるんですか。絢斗さんを一人で帰すわけにはいきません。何かあってからでは遅いです。凱さんに顔向けが出来ない。そう言った陽斗に対し、そこまでしてもらうのは悪いと一度は断った絢斗さんだったけど、陽斗の好意を無下にするのも申し訳ないと最後は折れた。
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