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第96話

「絢斗さん、あの」 「言わなくても分かっているよ。差し入れ禁止、湊にベタベタ触るの禁止、みまもりカメラで見ているぞ、悪さをしようとしてもバレバレだぞ。でしょ?」 「分かっているならいいんです」 にっこりと微笑む陽斗。 「陽斗さんの怖さと執着心の強さは誰よりもよ~く知っているから」 ゴニョゴニョと呟く絢斗さん。 「何か言いました?」 「なにも言ってないよ」 「本当に?」 「うん、気のせいだよ」 冷や汗をかきながら笑って誤魔化す絢斗さん。 「ほら、そろそろ行かないと遅刻するよ。いってらっしゃい」 絢斗さんとしては軽く背中を押したつもりでも陽斗にとったらものすごく痛かったみたいで悶絶していた。ドアをパタンと閉めたのち絢斗さんがはぁ~とため息をつきながら戻ってきた。 「陽斗さんを送り出すだけでこんなにも体力を消耗するとは思わなかった。疲れた」 ふと目があった。何か気になることでもあるのか僕の首もとをじっと見つめる絢斗さん。 「俺には凱さんがいるのに。なにもそこまでしなくても。困った二人だね」 クスリと笑われた。最初はなんのことを言っているのか分からなかったけど、両方の首すじにキスマークがくっきりと残ってるよ、目立つところにわざわざつける必要なんてないのに。今日仕事じゃなくて良かったね、そう言われてようやく気づいた。顔から火が出るくらい恥ずかしかった。 ドキドキし過ぎて心拍数が一気に跳ね上がる。これじゃあいつまでたっても熱が下がらないような気がした。

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