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第106話
「埒が明かないからじゃんけんで決めよう。負けたほうがご飯担当、買ったほうが湊担当な」
「よし、分かった。絶対に勝つ」
気合い十分で腕まくりをする陽斗。今度は何がはじまったんだろう。邪魔しないようにそっと二人を見上げると、
「湊は寝てていいよ」
満面の笑みが返ってきた。すごく嫌な予感がするのは気のせいだろうか。なんて思っていたらじゃんけんがはじまった。
そのときピンポンとインターホンが鳴った。
「絢斗さん今日は凱さんとデートだから来れないって言ってなかったけ?」
「言ってた」
「じゃあ誰だろう」
前髪を指でかきあげながら怪訝そうな顔をする陽斗。
「俺が見てくる」
新が立ち上がった。
「ずいぶんとまぁ早起きですね」
ため息まじりの新の声が聞こえてきた。
「誰?」
「川瀬次長。すぐ帰るからスエット姿でも気にしないから入れてくれって。どうする?」
「どうするもこうするもわざわざ見舞いに来てくれたんだ。断るほうが失礼だよ。湊もいいよね?」
陽斗に聞かれて頷いた。
「湊おはよう。すごく会いたかったのよ。ちょっと陽斗さん、その手を退けて」
川瀬さんが部屋に入ってくるなり顔をしかめた。
「手?」
「惚けないで。湊を抱き締められないじゃないの」
「川瀬さん、それってセクハラですよ」
「セクハラじゃないわよ。湊はみんなの湊でしょう」
頬っぺを膨らませる川瀬さん。相変わらず明るくて元気で賑やかな人だ。川瀬さんの顔を見ただけで元気になれるから不思議だ。
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