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第113話
最後のお客さんを見送り、後片付けを済ませた陽斗が店を出てきたのはそれから三十分後のことだった。
「悪い、暑い中待たせて」
「俺も湊も日陰にいたから大丈夫だ」
「これ見よがしにいつまで湊の手を握ってんだ?」
「なんだ分かったんだ?」
「あれほど自慢されたんだ。これでも腹が立ってる」
「そうなのか、それは悪かったな」
にかっと笑うと繋いでいた手を離す新。安心できるぬくもりが離れていくのがちょっとだけ寂しいと思ったけど、それをうっかり口に出したものなら火に油を注ぐようなものだ。
「悪いとは一ミリたりとも思っていない癖に」
陽斗が手をそっと繋いでくれた。
「新とは違って冷たくて悪いな」
「ううん、そんなことないよ。お仕事お疲れ様」
にっこりと微笑みかけると、
「それ反則だろ」
頬を真っ赤にして片手で顔を覆う陽斗。もしかして照れてる?普段は何事にも動じず冷静沈着なのに。いつもと違う陽斗にドキドキしてしまった。
「陽斗ばっかズルい」
「さっきまで湊を独り占めにしていた癖に。文句を言える立場か」
「だって俺だって……」
小さな声でボソボソ呟く新。
「なにも仲良く半分こすればいいだけたろ?」
小さな子どもみたいに駄々をこねる新を笑顔で宥める陽斗。こうして見るとやっぱり二人は兄弟なんだなってしみじみそう思う。喧嘩はしょっちゅうだけどすぐに仲直りしていつも通り一緒にいる。
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