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第114話
陽斗が僕に会わせたい人というのは菅沼さんだった。
「湊お坊ちゃま、お元気そうで何よりです。先日は誕生日のお祝いをいただきありがとうございます。お陰さまで還暦を無事に迎えることができました」
深々と頭を下げられて、面食らってしまった。
「菅沼さん、お坊ちゃまじゃなくて呼び捨てでいいです」
慌てる僕とは対照的に陽斗は落ち着いていた。
「菅沼、湊が驚いている。畏まらなくていい」
「左様ですか」
ごぼんと一つ咳払いしたのち、
「日本を発つまえに湊お坊ちゃま……いえ、湊さまのお顔を一目でいいから見たいと陽斗お坊ちゃまにお願いしたんですよ」
「仕事を辞めるんですか?」
「色々とありましてね、大旦那さまのもとで残りの人生を過ごそうと決めたんです。湊さま、お二人と両想いになられて本当に良かったですね。これほど嬉しいことはありません。長生きして良かったです」
菅沼さんかハンカチを取り出して涙をそっと拭った。思わず陽斗と新の顔を見ると、
「風呂に入っていたときにお祖父ちゃんから電話が来たんだ。新に代わりに出てもらったら、ピンと来たんだろうな。俺たちが付き合っていることにすぐに気付いて、息子たちがどんなに反対しようが俺たちは味方だから、応援しているからと言ってくれたんだ。ごめん、言うのが遅くなった」
陽斗がしれっと答えた。
「菅沼、用件は?」
「実は大旦那さまから貸金庫の鍵を預かっていたんです。湊さまが嫁入りされる日に渡してほしいと頼まれてまして」
「婿入りじゃなくて?」
「確かに嫁入りと申されていました。大旦那さまは三人がお付き合いされることを予想していたのかも知れませんよ」
予想もしていなかった菅沼さんの言葉に急に恥ずかしくて二人をまともに見ることができなくて。慌てて顔を下に向けた。
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