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第116話

「海外に移住したのは老後をのんびり過ごすとか言ってたけど、嘘だよね?」 「陽斗お坊ちゃまには隠し事は出来ませんね。あれこれと口出ししてお二人の仲が壊れてしまったらもともこうもないから、年寄りは大人しく田舎に引っ込む。これで罪滅ぼしになるとは思わない。一生かけて償う。そう仰っていました」 「お祖父ちゃんだけが悪い訳じゃない。婿養子として七海家に入り、どこの馬の骨かも分からぬ。所詮は財産目当て、親戚からは余所者と白い目で見られ、義両親とも折り合いが悪くかなり苦労したと聞いているから」 「名家とはいえ移り行く時代とともに価値観を変えていかねば生き残ることは出来ません。遊び呆けて散財しぬるま湯に浸かったままの生活を続けていたらいつか破綻するのは目に見えているとは思うのですが。奥様が湊さまに大変失礼なことをして申し訳ありませんでした。凱さまからきつくお叱りを受けました」 「何度注意しても意味がない。だってあの人笑っていたでしょう?他人事だと思って一切聞いていないから。吉人さんはいつものように雲隠れ?」 「はい。奥様やお子さまがたの側にいて欲しいのですが……」 「無理だね。都合が悪くなるといなくなるから。ほとぼりが覚めたころにふらりと帰ってくるから心配する必要はない」 「ですが……」 菅沼さんの表情はさえなかった。

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