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第128話
季節はゆっくりと進み、寒がりな僕が一番苦手な冬の季節を迎えていた。
「ねぇ、聞いた?」
「聞いた、聞いた。社長も、社長の息子さんたちも女の敵じゃん。川瀬次長の妹さん、可哀想」
「本当にそれ」
「聞いた話しでは社長、出勤してからはじめて火事のことを知ったみたいよ」
「えぇ~~嘘。信じらんない」
お昼休憩時間、事件の話題でもちきりになっていた。こんな状況で休憩スペースに入れない。経理課に戻ろうとしたら、
「もしかして座るところがない?」
新に声を掛けられた。
「座るところはあるんだけど……」
「別に悪いことをしている訳じゃないんだ。堂々と入ればいい。もしなにか言われたら俺が言い返してやる。絶対に俺が湊を守るから」
「ありがとう新」
意を決して休憩スペースに入ると、一瞬しんと静まり返った。
「あ、そういえば」
何食わぬ顔で何事もなかったように別の話題を持ち出す人もいれば、気まずそうな顔をしてご馳走さまをしてそそくさと席を立つ人もいれば、
「桜井さん、隣いい?」
満面の笑みを浮かべて空いている席に座る人もいる。人それぞれだ。
「休んでしまいすみませんでした」
「体調は?もう大丈夫なの?」
はい、笑顔で答えると、
「良かった。心配していたんだからね」
土居さんがホッとして胸を撫で下ろした。
「私も心配していましたよ」
安永さんが気配もなくぬっと姿を現したからひっくり返るくらい驚いた。
「ちょっと待って。一回頭の中を整理させて」
「いや、整理しなくても、父さんはタツミ探偵事務所の親会社である沖電気サービスの役員もしているんだ」
「全然知らなかった」
「ちょっとそこ。イチャイチャしないのよ」
川瀬さんがサンドイッチと飲み物を手に僕と新の間に割り込んできた。
「川瀬部長、大人気ないです」
「あら、そうかしら」
赤字経営から脱却するため役員の刷新と大がかりなリストラと人事異動が行われ、川瀬さんは生産管理部の部長になった。
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