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第12話 後朝

後朝 「ん……」  ぼやけた思考。やけに疲れているけれど、どこかすっきりしている気がする。普段はアラームで目が覚めるのに、早く起きてしまったのだろうか。今日はいつもより布団が温かい気がした。朝陽の身体にぴったりとくっついているような。  目をごしごしと擦って視界を明瞭にする。すると。 「……っ!?」  目の前には整った一郎の顔があった。朗らかな瞳は閉じられていて、彼が眠っているのだとわかる。一郎の顔を見て昨夜のことを思い出した。一郎への想いをぶちまけて、彼がそれに応えてくれて、恋人同士になって。  一郎に甘やかされているうちに眠くなってしまい、自分の家に帰らずに一郎の家に泊まったのだ。  それにしたって距離が近い。あまりにも心臓に悪い。  ──こいつ、なんでこんなに顔かっこいいんだよ! 「っ、くっ、ぅ……!」  腕の中から逃げようとするが、がっしりとホールドされていて動けない。 「っ、馬鹿力……!」  必死に身体を捻っていると、一郎の瞼がゆっくりと開かれた。 「ん……あさひ?」 「つ、つしま、離しっ」 「おはよう。あさひは寝起きもかわいいね……」  そう言って一郎はちゅ、と朝陽の唇に触れた。 「な、あっ」 「でも呼び方違うよ? 俺のことはなんて呼ぶんだっけ?」  一郎がこてんと首をかしげる。もう苗字で呼ぶのは許されないようだ。 「い、一郎……?」 「そう。いい子」  また口づけをひとつ。そして、優しく頭を撫でられる。何なのだこの甘やかしっぷりは。 「なんで起きようとしてるの? 今日日曜日だよ? まだゴロゴロしてよ?」 「駄目だろ、休日も平日と同じ時間に起きないと体内時計が──」 「大丈夫。いつも早起きして頑張ってるんだから、休みの日くらいゴロゴロしても誰も怒らないよ。もうちょっと俺に付き合って欲しいな」  一郎はふにゃりと笑って朝陽の腰を引き寄せる。ふたりの間の距離がなくなって、触れ合ったところから体温が伝播する。 「つし……一郎っ、ちか、近い」 「近いのは嫌? 朝陽、俺が抱き締めると幸せそうだからいいかなって思ったんだけど」  一郎に抱き締められるのは好きだ。けれど、朝からこれは刺激が強すぎる。昨日まで一生叶わない恋だと思っていたのだ。それが一緒に眠って、朝から口づけを与えられるなんてキャパシティオーバーになってしまう。 「心の準備ができないんだよ!」 「じゃあちょっとずつ慣れていこう? 俺、恋人はめいっぱい甘やかしたいんだ。朝陽が嫌じゃないならたくさん触ってキスしたい。ずーっと抱き締めたいよ」  ねえ、ダメ? と甘えた声でたずねられる。朝陽に最終決定権を委ねるのがずるい。けれどそれがわざとではなく、本当に朝陽を慮っての言葉なのだからたちが悪い。 「だ、駄目って言うか、恥ずかしいから……!」 「うん、じゃあ大丈夫。そのうち俺に抱っこされるのが当たり前になるよ。ふふ、朝陽、あったかいね」  額にキスを落とされて、ぎゅうと抱き締められるといっそうふたりの人間の境目がなくなっていく。まるで子どもが愛でるテディベアになった気分だ。 「お腹すいたらごはん作るよ。だからそれまで甘やかされて。ね? あとごはん食べた後もいっぱいくっつきたいな」  一郎が朝陽の体温を確かめるように頬擦りする。  もしかしたら、とてつもない男の恋人になってしまったのかもしれない。そう思ったがもう逃げることなどできない。冬の朝、愛しい男の温もりに包まれながら、朝陽は小さく悲鳴を漏らした。    

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