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第16話 大切だから、大好きだから(後編)※R18

※R18描写あり。長いです。 大切だから、大好きだから(後編)  薄暗い部屋の中、下着だけを身に着けた状態で押し倒される。一郎の優しげな瞳にじっと見つめられて、どうしたらいいのかわからない。 「さ、誘っておいてなんだけど、オレ、こういうこと、したことない……」  そもそも恋愛をしたことがなかったのだ。性行為なんてしたことがないに決まっている。 「俺は男とこういうことするの初めて」  一郎がにへら、と笑いながら朝陽の肌に手を這わす。心臓の辺りに辿り着いた手のひらが温かい。 「すごいドキドキしてるね」 「うるさい! 当たり前だろ!」 「俺もだよ、ほら」  一郎の手が朝陽を導いて、彼の胸に手を当てる。すると、どくどくとうるさいくらいの鼓動が聞こえてきた。 「おそろいだね」  そう言って小さなキスが何度も降ってきて、身体の形を確かめるように手が伝う。 「あっ……」 「いっぱい、気持ちよくなろうね」  一郎の手が下着をわずかに押し上げている性器に触れる。下着越しに優しく扱かれて、腰がびくんっ! と跳ねた。 「ひぁっ! い、いちろっ」  一郎に性器を擦られただけで、下着に濃い染みができてしまう。普段自分で処理するときはこんな風にならないのに。 「あんっ……は、あっ、ぁぅ、あ……ふ、ぁっ!?」  ──なんだこれ。なんでこんな変な声出るんだ!?  あられもない声が恥ずかしくて声を嚙み殺そうとしていると、一郎の手が下着をずらして性器に触れた。直接的な愛撫に、朝陽のそれは涙を零して幹が震えてしまう。 「気持ちいい?」 「ひぁっ、んっ、はぅっ……、ぁぁっ、ぁンっ、あっ!」 「朝陽、教えて。朝陽が嫌なことしたくない」  一郎はどこまでも優しくそうたずねてくる。気持ちいいのなんて見ればわかるだろうに、朝陽の答えが欲しいと、真剣に。 「きも、ち、いいっ……っあ、ぁッ、ひッ、ぁ、んぅっ……!」 「そっか、よかった。もっと気持ちよくなろうね」  一郎の手淫が早くなる。自分で必要最低限にしているそれは明らかに違う、快楽を与えるための動きに慣れているはずもなかった。朝陽は自分の腰がかくかくと動いているのに気づかず、一郎の手に性器を擦りつけた。そこからからにちゃにちゃといやらしい水音がして、淫らなことをしているのだとわからせられてしまう。 「は、ふぁっ、ぁッ、っン、んぁっ! は、あっ、ふぅっ……! ぁ、ぁ、あッ、も、出るっ……」  ぞくぞくと腰から熱がせり上がってくる。人前で射精なんてしたことがない。自分から誘っておいて、今更ながらとても恥ずかしいことに誘ったのだと自覚してしまった。 「うん、じゃあ『イく』って言ってごらん?」 「あッ、は、あっ……んぅ、っぅ、あっ、んぁ、イ、く……?」 「そう、ほら、イっていいよ、朝陽」 「イ、く……イくっ、いちろ、イくっ……! あッ、イく、っくる、あンっ、あ、あ、あ────!」  びゅく、とはしたなく性器から白が溢れる。一郎の前で、こんなにもすぐ達してしまった。  ──っ、恥ずかしいっ……! セックスってこんなに恥ずかしいのか……!? 「は、ぅ、ぁ……」 「うん、上手にイけたね、いい子」  一郎はいつもの調子で優しく頭を撫でてきた。それだけで、恥ずかしいところを見せてしまった羞恥心が落ち着いてくる。 「いちろう……」 「じゃあ、次はこっち。触るね」 「え、ぁっ!」  こっち、と言いながら、一郎は小さな窄まりの入り口に触れてきた。男性同士の性行為でそこを使うことは知っていたが、いざ本当にそれをするとなると緊張が走る。 「っと、濡らさないとダメか。ちょっと待ってて」  一郎は朝陽が買ってきた潤滑剤のビニールを取って、その中身を手のひらに垂らして温める。多く出し過ぎたそれが、ぽたぽたとシーツに零れた。 「お、多くないか」 「少ないよりいいかなって。あんまりケチると痛いらしくて」  一郎の指がもう一度窄まりに触れる。 「痛かったらやめるから言ってね」 「わかった……っ、んっ……! ぅ、く……!」  つぷ、と指が入ってくる。とてつもない異物感。当然だ。本来何かを受け入れる場所ではないのだから。 「朝陽、痛い?」 「っ、たく、ない……抜くなっ……!」  ここで日和れば一郎はもう性行為をしてくれないかもしれない。それは嫌だった。ここまで来たのなら絶対に最後までやってみせる。 「でも……」 「少し、苦しいだけ、だからっ……! 慣れれば、平気だっ……っ、う……」  必死に息を吐いて苦しさを逃がす。少しすると、ほんの少しだけ異物感が減ってきた。 「も、動かして、いいから……」 「……わかった。ちょっと苦しいかもしれないけど、ごめんね。すぐに気持ちよくするから」  一郎がゆっくりと指を抜き差しする。ずっと違和感が拭えない。指一本でこれなら、男性器など絶対に受け入れられる気がしなかった。 「うっ……ふ、ぅ……」  痛みがないのだけが救いだった。呼吸が浅くなる。いつになったらこの苦しさは続くのだろう。そう思った時だった。  一郎の指が、とある箇所を掠めた。瞬間、脳に感じたことのない甘い電流が走る。 「ひァっ!?」 「見つけた、ここだね」  そう言って、一郎は少し盛り上がっているしこりをとん、と押す。また脊髄から脳へ駆け上がる甘い痺れ。 「ひゃぁっ! ぁっ、あ、あっあッ、っ、ぁっ! は、ぁ、ひっ、ああぁ! いち、ろ、なに、きもちいっ……!」 「前立腺。ここ触ると気持ちいいんだって。少し解れてきたし……よかった」  彼はそう言いながら前立腺を刺激する手を止めない。甘やかな波が次から次へと押し寄せ、どうしようもなくなっていく。 「は、あっ、うぁんっ! あァっ、ぁっ、ああんっ! っひ、あッ、ああぅっ、あっ!」 「朝陽、指増やすね」  一本、指が増える。だが先程のような異物感は少なかった。脳はそれよりも与えられる快感に震えるのに忙しい。  二本の指で後孔を拡げながら前立腺を愛撫され、朝陽の太ももがびくびくと痙攣する。  ──おかしい、なんだこれ、こんなの知らないっ……! 「ン、あッ、っひぁっ、ひゃぁっ! ふ、ぁッぁ、あッ、あっあ!」  あまりの気持ちよさに涙がぼろぼろと零れる。こんな快楽、頭がおかしくなってしまう。 「朝陽、大丈夫? 痛い?」 「ちが、ぁ、きもち、いい、からっ……」 「よかった、じゃあもう一本増やすよ。苦しかったらちゃんと言ってね?」  三本目はよりスムーズに後孔に飲み込まれた。とんとんと前立腺を何回も愛撫されて、嬌声を抑えられない。 「あンっ! んぅっ、ぁっあっ、は、あぅ、あっ! ひぅっ、ぁッ!? いちろ、待っ……!」  一郎の手が朝陽の性器に触れる。びくびくと頭を振っているそれを上下に擦られてしまえば、ふたつの刺激で意識が飛びそうになった。 「こうしたらもっと気持ちいいかなって、どう?」 「ひぅっ、ぅあっ、あ、あッ! ああっ、ひぁっ、ぁ、また、イくっ……!」 「いいよ、何回でもイって」 「あ、あ、あ────!」  二度も吐精したせいで腹がべったりと濡れている。荒い息を吐いていると舌を絡め取られて、息を深く飲み込まれた。 「ん、う……」  唇が離れて、一郎の下腹部に触れた。あんなにみっともない声を聞かせたのに、彼の屹立は腹につきそうなほどに存在を主張していた。  ──こいつ、オレで興奮してる……。 「いちろう、も、いれろ……」 「でも、もうちょっと解さないと。苦しかったり痛かったりするって言うし……」 「っ、お前の基準でやってたら、いつまで経ってもできないだろ……!」  朝陽はサイドテーブルに置いてあるコンドームの箱を取って包装を解いた。一郎のそれは血管を浮き上がらせて勃ち上がっている。 「っ……」  どくどくと脈打っている屹立に改めて息を呑んだが、覚悟を決めて個包装を破って、人生で初めて見るコンドームを慣れない手つきで被せた。 「朝陽……」 「ちょっと苦しいかもしれないくらいで、お前のこと諦められないんだよっ……! 今抱かなかったら……っ、その、一ヶ月顔合わせないからな!」  彼とどうしても繫がりたくて脅しなんて最低な手段に出る。すると一郎は愛おしげに朝陽を抱き締めて、敵わないなあとため息をついた。 「わかった。絶対気持ちよくするから」  一郎が屹立を後孔にあてがう。指より太いそれがゆっくり身体の中に入り込んできて、呼吸を忘れてしまうほど苦しかった。 「っ、は…………!」  息がうまくできない。下半身の苦しさに目を閉じていると、一郎が身体を包み込んできた。 「朝陽、ゆっくり息して。いつも練習してるみたいに」 「はーっ……すーっ……はーっ……」 「うん、上手。いい子だね……痛くない?」 「ったく、ない……けど、動かれたら、キツいっ……」 「大丈夫……。慣れるまで待つから」  一郎の言う通り深呼吸をすると、苦しさが少し和らいだ。彼も早く動きたいだろうに、朝陽を慮って優しく抱き締めてくれる。  やがて数分経って、苦しさが我慢できる程度にまで落ち着いた。 「一郎……もう、平気っ……」 「うん、じゃあ動くね」  ゆっくり、ゆっくりと抽挿が始まる。正直言って快楽よりも苦しさが勝る。だが、これ以上一郎に我慢させたくなった。 「朝陽……大丈夫?」 「ぅ、う……いいから、止めるなっ……!」  苦しい、苦しい、苦しい、苦しい。一郎と繫がるのを諦めたくないのに。自分の身体が男を受け入れられるものでないことに悔しさが湧き上がってくる。  ──オレの身体じゃ、無理なのか……? 「確か、ここだと思うんだけど……」  一郎が屹立を浅く抜き差しして、何かを探す。 「……っ? いちろう、なに……」  ごり、と圧倒的な質量のそれが先程愛されたしこりに触れた途端、それまでの苦しさがどこかに吹っ飛んで、甘すぎる衝撃が脊髄に走った。 「ひゃあ、ぁっ────!?」 「うん、やっぱりいいんだね、朝陽、ここが好きなんだ」  一郎は嬉しそうに笑って、朝陽の弱点を何度も責めた。指とは太さも長さも熱も違う。快感も先程より何倍も強く、脳が焼き切れてしまうのではないかと思うほどの暴力的な快楽の海に溺れてしまう。 「っひ、ぅあっん! ぅっぁ、あッ! ああ、は、あっ、あンっ、うあッ、ああっ、ひぅっ、ぁふ、ぁッ!」  甘い声が部屋を満たす。やがて内壁はすっかり解れ、前立腺以外の場所を突かれても快感を感じるようになった。 「ネットで調べたら奥もいいって聞いたんだけど、どうかなっ……?」  屹立が奥深くまで入り込んでくる。肉の壁は強請るようにそれに吸い付き、必死に甘く締め付け上げる。こつこつと一番奥を突き上げられる度に、身体がつくりかえられていく感覚がした。 「ひぁっ、ぁあっ! ぁんっ、いちろ、奥、きもちいっ、ぅぁあっ、っあ!  あ、あ、っ、は、ふ、ぁッう、ぁぁんっ!」 「うん、朝陽、すっごい気持ちよさそう……中きゅうってしてる……」  鳶色が愛おしそうに朝陽を見つめる。必死にシーツを掴む手を解かれて、優しく指を絡められた。 「好き、大好きだよ、朝陽っ……」 「いちろ、オレも、あンっ、すきっ、んァっ、あッ、ぁ! あッ、ああっ、ひぁっ、ぁぅっ! ひぅっ、あぁっ!」  互いを求めて、高みへと昇っていく。ふたりが蕩けて身体の境界が分からなくなる。朝陽は三度目の射精感を覚えて、目の前の相手に縋ることしかできなかった。 「イく、いちろう、イくっ……! ぁ、くる、ぁあっ、あんっ、っひ、あ!」 「うん、一緒にイこっ……?」  律動が激しくなる。息が荒くなっていて、一郎も限界が近いのがわかった。  ぞくぞくとした恐怖に似た感覚に、ぎゅうと一郎にしがみついた。 「ひぅっ、あっん! ぁんっ、ひぁっ、あ、あぁっ、あ、あアっ────────!」  目の前に白い火花が散る。内腿がびくびくと痙攣して、内壁が屹立を強く強く締め付けた、  どこまでいっても果てのない浮遊感。まるで真っ白な世界に投げ出されたようだった。 「っ、ぅっ……!」  一郎が小さく喘いで、被膜越しに熱が吐き出される。はあはあとふたりの乱れた息が部屋を満たした。 「あさひ、大丈夫……?」 「は、はっ……はーっ……お前、そればっかり、だな……」 「だって、朝陽の方が大変だから……」  一郎はゆっくりと屹立を抜いた。コンドームの中に精液が溜まっているのを見て、朝陽は一郎が自分で達したのだと実感を得る。 「どうしたの?」 「いや……その、本当にオレで興奮したんだなって……」 「当たり前でしょ。朝陽のこと好きになってからは朝陽でしか抜いてないよ」 「……じゃあ、早く手出せばよかったのに……」  というか、手を出してほしかったのに。拗ねるように言うと、一郎はにへらと笑ってキスを落としてきた。 「好きな子だから、大事にしたかったんだよ。心配しないでも、朝陽は世界で一番魅力的だから」 「……ん」  好きな子、と言われて胸がきゅうと疼く。途端に恥ずかしくなって、両手で顔を覆った。 「風呂入ろっか。一緒に入る?」 「……はいる……」  全身汗と体液でべたべただ。行為の最中は何とも思わなかったが、終わった後は少し不快感が残る。朝陽は事後特有の──それが事後特有であることは数度の行為を経験してから知るのだが──感覚を覚えながら、ベッドから起き上がった。

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