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第17話 幕間:スライム状の恋人

一郎視点のお話です。短めです。 幕間:スライム状の恋人  ふと、意識が浮上する。自分が温いものを抱き締めているのに気づいて目線をやると、気持ち良さそうに眠っている黒髪の恋人がいた。  会社ではしっかりセットされている髪が、寝癖であちこち跳ねていて、前髪がしっかりと額を隠している。 「かわいい……」  ちゅ、と前髪に口づけをひとつ。サイドテーブルのスマートフォンに手を伸ばして時刻を確認すると、もう十時を回っていた。  ──朝陽のこと甘やかしてゴロゴロなんて、最高の休みだなあ。  朝陽は付き合い始めた頃、決まった時間に起きないことに罪悪感を覚えていた。そんな悪いことをしてもいいのかと、叱られることを恐れる子どもような顔をしていたのを覚えている。実際、付き合い始めた頃は一郎より早く目を覚まして、一郎が起きるのを待っていた。  それが、今はどうだろう。一郎の腕の中で安心しきった小動物のように眠って、起きる気配が少しもない。『練習』を始める前の、触れるものを全て傷つけるほど張り詰めていた空気が嘘のようだ。 「いい子だね、もっといっぱい甘えていいんだよ、朝陽……」  まっすぐなぬばたまの黒を撫でていると、彼の目がゆっくりと開いた。 「ん……」 「ごめんね、起こした?」 「いや……」  朝陽の瞳はとろんとしていて、今にも溶けそうだ。意識がはっきりと覚醒していないのだろう。とろとろのスライムみたいで、とても可愛らしい。 「朝ごはん食べる?」 「……もうちょっと…………」  食い気より眠気が勝ったらしい。起こしてしまったことに申し訳なさを感じていると、朝陽がぴたりと身体を寄せてきた。 「いちろう……」 「うん。もうちょっと寝たいんだよね」 「ちがう、その……」 「?」  朝陽は寝ぼけ眼のまま少し視線を泳がせて、やがて一郎の唇にそっと唇を合わせた。 「い、いちゃいちゃ、したい……」  白い肌が林檎のように真っ赤だ。態度で示すことはあったが、彼が積極的に言葉で表してくれるのは始めてだった。 「駄目か……?」  「……ダメなわけないよ。じゃあ、イチャイチャしよっか。キスしていい?」 「ん……」  キスしようと顔を近づけると、彼の方から唇が近寄る。そのままはむりと唇を食まれて、一郎は目を見開いた。舌がゆっくりと差し込まれて、一郎の咥内を舐めていく。  こんな風に朝陽から深いキスをしてくるなんて。唇が離れると、朝陽は一郎の腕の中に収まった。 「抱き締めて、ほしい……。ぎゅうっ、て……」  朝陽は砂糖が溶けたような甘えんぼうの声で、一郎の心をくすぐるようなことを言う。彼は生来真面目なのに、一郎の影響か語彙が柔らかなものに変化してきている。まだ少し言い慣れていないそれが、どうしようもなく愛しい。 ──うん、俺の恋人、世界で一番可愛いや。 「いいよ、キスもハグも、いっぱいしよう」  一郎は緩む頬を抑えないまま、愛らしい恋人を抱き締めて優しく口づけた。

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