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第24話 世界を壊す愛

R18表現あります。 世界を壊す愛   一郎のベッドの上、腹につきそうな程に勃ち上がっているそれを両手で擦る。どんどんと鈴口から先走りが零れて、朝陽の手を汚した。 「はっ、っ……あ、さひ……」  彼の眉が歪む。彼が朝陽の手淫で彼が気持ちよくなっているのが、どうしようもなく嬉しかった。 「一郎……気持ちいいか……?」  いつも一郎が気持ちいいかと聞いてくるたびに見ればわかるのにと思っていたが、実際に快楽を与える側になって初めて、どんなに視覚でわかっても言葉で聴きたいものなのだとわかった。 「うん……すご、気持ちいい……もっとして……」  一郎の声が少しだけ上擦って、手の中の熱がびくびくとうごめいている。 「っ、こうか……?」  片手で幹を扱きながら、もう片方の手で鈴口を刺激する。いつも一郎が朝陽にしている動きだ。 「っ、朝陽、上手だね……」  褒められたのが朝陽の気分を良くして、もっとと手を早める。火傷しそうなほど熱く昂ぶっているそれが、一層硬さを増した。 「やば、イきそっ……」  一郎の顔がまた歪む。それを見ているだけで、触れられてもいない朝陽の性器も首をもたげて涙を零す。こんなに艶やかな光景を見て、興奮しない方が無理だ。彼を絶頂に導きたくて、一生懸命手を動かした。 「っ、あ、くっ……!」  小さな喘ぎ声と共に、屹立から白が溢れる。勢いのついたそれは、朝陽の手にべったりと張り付いた。  ──イった。一郎が、オレの手で。 「一郎……イった……?」  事実を確かめるように、ぽつりとつぶやく。 「はぁっ……そう、だよ、朝陽、気持ちよくしてくれてありがと」  一郎が子どもを褒めるように朝陽の頭を撫でる。もっと彼を気持ちよくしたい。だが、性の知識に乏しい朝陽では手淫が限界だった。こんなことならばもっとそういったことも勉強しておくんだったと後悔する。 「次は朝陽の番ね」 「っ、あ」  シーツの海に押し倒される。一郎の手が朝陽の性器に触れて、既に先走りをだらだらと零しているそれの快楽を煽るように手を動かした。気持ちがいい。けれど、ひとりで気持ちよくなるより、今は。 「や、そっち、いいっ……早く、後ろ触れっ……!」 「朝陽は俺のこと気持ちよくしてくれたのに?」 「も、待てないっ……一郎が、欲しいっ……! はやく……!」  彼の屹立に触れて、今すぐにでも貫いてほしいという欲望が抑えられなくなった。繫がりたい。生涯を共にする伴侶と、ひとつになりたかった。  ──欲しい、一郎が欲しい。今すぐ。なんでオレの身体は慣らさないといれられないんだろう。 「……そんなかわいいこと言われたら、俺も我慢できないよ」  一郎の手が潤滑剤に伸びて、粘度のある液体が手のひらで温められる。それでコーティングされた指がつぷりと入ってきて、朝陽は歓喜の声を上げた。 「あッ、っ……! ぁ、ああっ、は、あ、あっ!」  一郎との行為ですっかり愛されることを覚えたそこは、初めて抱かれた時のことが嘘のようにあっさりと指を飲み込む。ぐちゅぐちゅと水音を立てながら内壁を擦られて、あられもない声が止められない。  彼の指は慣れた手つきで前立腺をとんとんと叩き、脳に連続で電流が走る。 「ひゃぁっ! あ、そこっ、いいっ……! っひ、ぁぅっ! あんっ、ぁッ、んァっ、あッ! ひあ、あ!」 「今日すっごい感じてるね……気持ちいい?」 「きも、ち、いいっ、ぁ、あんっ、ぁぁっ! あッ、ひぅっ!」 「まだ指一本なのに……これならすぐいれられそうだね。けどもうちょっと……」  指が二本、三本と増えていき、その度に快楽の波も高まっていく。性器がびくびくと震えて、とめどなく先走りが溢れた。  中指で一際強くしこりを押された時、朝陽の五感は宙に浮いた。 「あッ、ぁっ──────!」  堪え性などない性器から欲望が散る。指だけで達したのは初めてだった。今日は自分でも驚くほどに感覚が鋭敏になっている。 「朝陽、気持ちよくなれて偉いね。大丈夫?」 「っ、は、ぁ、いち、ろっ……はやく、はやくいれてくれっ……いちろうの、ほしいっ……」  朝陽が涙目で懇願すると、一郎の瞳に宿った欲望の色が強くなる。彼は息を吐いてから、慣れた手つきで屹立にコンドームを被せた。 「うん。俺も早く朝陽と繫がりたい。イったばっかりで辛いかもしれないけど、いれるね」  蕩かされた肉壺に、男の欲望が入り込む。一郎は達したばかりで痙攣している朝陽のそこを深く最奥まで穿った。 「っ、ひ、ぁ、あっ────!」  絶頂によって何倍も敏感になっているそこを貫かれて、目の前にチカチカと星が飛んだ。また性器が白を吐き出して、内壁がびくびくと収縮する。 「はっ……朝陽、ナカすご……きゅうきゅう締め付けてくるっ……」 「ぁ、いちろ、いちろうっ……もっと、ほしいっ……!」 「うん。朝までしよう? 朝陽のこと、ぐちゃぐちゃのどろどろにするね」  欲を隠さない雄の声。その言葉で、肉欲を埋められた胎がまた疼いてしまった。 「っ、ふふ、朝陽、甘えんぼうだね……こことかしたら、またイっちゃうかなっ……」 「あ、あンっ! ひゃぁっ────! ひぁっ、っうん、ぅっあッ、んぁあっ、あ、あ────!」 「うん、やっぱり……ずっとイってるねっ……」  一郎に奥を突かれる度、朝陽は達してしまう。達して敏感になったそこを責められて、また達して。際限なく屹立を締めつけるそれに、一郎も荒い息を漏らした。 「っは、朝陽っ……! 俺もっ……!」  腹の中の欲望が爆ぜる。避妊具越しのそれが、やけに熱く感じた。 「待ってね、ゴム替えるから……」  一郎は屹立をずるりと引き抜いて、新しいコンドームを手に取った。  熱を失った内壁が喪失感を覚える。ほんの少しの間のはずのそれが、永遠に感じられた。 「いや、だ」  朝陽は個包装を破いた一郎の手に手を伸ばした。 「コンドーム、つけるなっ……!」 「え?」 「そんなの、いらないからっ……」 「着けないと病気になっちゃうよ?」 「いらないっ!」  子どものように駄々をこねる。一晩中一郎と繋がっていたいのに、コンドームはそれを邪魔するひどい物だ。 「ずっとしたいのに、いちろうが、いなくなるの、いやだぁっ……!」  寂しくて涙がぽろぽろと零れる。わがままを言う朝陽を見て、一郎は心のそこから愛おしそうに目を細めた。 「……そっか、さみしいかあ。ごめんね。でもこれからも朝陽とずーっとエッチするために必要なものだから、それだけは我慢して?」 「っ、や、だ……」 「それにね、着け直す時はさみしいかもしれないけど……」  一郎が朝陽の足を大きく割り開く。新しいコンドームを着けた屹立が、いやらしくうごめく内壁を貫いた。 「っ、あ、あ────ッ!」  何度目かになる精液が飛び散る。待ち望んでいた欲望を与えられて、身体が歓喜に打ち震えた。 「もう一回いれた時に、すっごく気持ちいいでしょ?」 「っあ、んっ、ひぅっ、ぁ、あッ、いち、ろぉっ……!」 「さみしくさせてごめんね。その分いっぱいするから、もっと俺に甘えて?」 「いちろ、ぁっ、またイく、あ、ぁ、っあッ、んぁあっ────!」  薄くなった白濁が腹を汚す。一郎は喘ぎ続ける朝陽を見て、うっとりと目を細める。 「朝陽、かわいい……」  また律動が再開しかけたその時、不意に朝陽のスマートフォンが鳴り響いた。  無視をしていれば切れるかと思ったがそれはいつまで経っても止むことがない。こちらから切ろうとスマートフォンに手を伸ばして、朝陽はひゅっと息を呑んだ。 「っ……!」  画面に表示されていたのは、着信拒否をし忘れていた実家の固定電話の番号だった。  まだ、朝陽を諦めていないのか。あんなにもはっきりと、決別の意志を伝えたのに。 「朝陽、もしかして……」 「っ!」  朝陽の表情から相手が誰か悟ったのだろう。だが、朝陽は一郎が何か言う前に、スマートフォンの電源を切ってラグの敷かれた床に投げた。 「朝陽……」 「一郎が、いるからっ……」  もうスマートフォンに目を向けずに、一郎を抱き締める。 「だから、いい」  朝陽は目の前の男を選んだ。それが全てだった。  一郎が言葉を紡ごうとして、朝陽はそれを唇で塞ぐ。  優しい彼のことだ。本心で自分を選んで欲しいと思っていても、だからと言って朝陽の両親に対して何も感じないはずがない。 「んっ……」 「は、んぅっ……」  朝陽も罪悪感がないわけではない。むしろ、無視ができない程に胸に蔓延っている。けれどそれは、プロポーズすると決めた時に、生きていく限り背負っていくと決めたものだ。 「朝陽……」  朝陽の決意を汲み取って、一郎は朝陽を抱き締め返して再び身体を揺さぶり始めた。 「朝陽、朝陽……俺は朝陽のものだからね……」 「あっ、ん……! ばっ、か……おまえ、は、物じゃないだろっ……」 「ものってそういうことじゃなくて……俺が朝陽にできることは全部するってこと」 「ひぁっ、あ、あ!」 「世界と朝陽を選べって言われたら、俺は朝陽を取るよ」 「っ、ぁ、んっ、おまえ、世界ってっ……比べるもの、大きすぎだろっ……んぅっ、んァっ、ああっ!」  ぴたりと一郎の律動が止まる。 「ううん、だって朝陽は家族を……今まで生きてきた世界を、俺と生きるために捨てたんだよ。だったら俺は本当の世界だって捨てる」 「い、ちろ……」  一郎の表情は真剣だった。閨事の冗談には思えない。  優しい男が、誰にだって優しい男が。全てに求められる男が、その全てを捨てて朝陽を選ぶという。  きっとこれは、この世で一番重い愛だ。言葉で言い表せないほどの、世界を壊してしまうほどの、愛。 「ねえ朝陽……愛してる」 「っ、あっ!」  収まっていたままの肉欲がぐちゃりと動く。不意に快感を与えられて、腰がかくんと跳ね上げた。一郎から捧げられるものに、身体の全てが悦ぶ。 「いち、いちろぉっ……!ひゃぁっ! ぅあんっ、んあっ、あンっ! あッ!」  それから、朝陽は一郎に責め立てられる度に達した。もう何も出すものが無くなった時、その変化はおとずれた。 「ぁあっ、ひぅっ、んぁっ、あッ、ぅン、ぁ……ふぁっ!? 」  ぞくり、と背筋が震えた。それまでとは比べ物にならない大きななにかが押し寄せてくる。  また絶頂するのかと思ったが、朝陽の性器は何も吐き出していない。 「い、いちろ、なんか、へんっ、ぁッ、ンぁっ、あんっ!」 「変? どうしたの、朝陽っ……」 「ぁっ、も、出せないのに、イきそっ……ひぁっ! あ、ァっひぁっ、ぁ、あッ!」 「……ああ、そっか、大丈夫だよ、朝陽っ……そのままイってっ……」  抽挿がより一層早まる。朝陽は目の前にチカチカと白い星が瞬くのが見えた。 「あっ、あ、あ────────!」  がくがくっ! と腰が跳ねる。性器は何も吐き出さず、射精をする何十倍もの快楽が朝陽を襲った。脳そのものが揺さぶられているような感覚。身体が暴力的なまでの浮遊感に襲われ、戻ってくることができない。それは、今まで感じたことのない未知の感覚だった。 「っあ、あ…………ぁ、え……? な、んで、ずっと、イって……」  未知はそれだけではなかった。どれだけ経っても、快感の波が引かない。身体中が鋭敏な感覚に包まれて、絶頂特有の多幸感が消えない。 「メスイキできたね……朝陽、いい子」 「メ、ス……?」 「出さないでイくのをそう言うんだって。いっぱい気持ちよくなった証拠だよ。いい子だね」 「っ、いい子……?」 「そう、いい子、いい子」  一郎が愛おしげに朝陽を撫でる。朝陽は達したままの身体を擦り寄せて、一郎に縋った。 「っ、いちろ、もっと……」 「うん、もっとしよ……?」  ふたつの身体がひとつに溶けていく。朝陽はどうしようもない幸福に溺れながら、甘やかな声を上げ続ける。  もう、ふたりを引き裂くものはなにもなくて、ただ永久に続く幸福だけが、そこに在った。

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