34 / 68

第二章 第7話 夜の頻度の問題※R18

※R18表現あります 夜の頻度の問題   朝陽と一郎は、結婚するにあたって、いくつかのルールを設けた。共同生活を送る以上当然のことである。  生活費や家事の分担などよくあるものから、喧嘩をした時の仲直りの仕方、朝起きた時は必ずキスをするなど甘やかな内容のものまで、それらは多岐にわたる。  ふたりでしっかりと話し合ったそれだが、一郎はそのうちのひとつに不満を持っているらしかった。 「……ねえ、やっぱりここの項目変えちゃダメ?」  壁に貼られたルールを見ながら、一郎が寂しそうに呟く。彼が指を指したのは性生活におけるルールだった。『性交渉は金曜と土曜の夜、祝日など次の日に予定がない日のみにする』──朝陽が提示したものである。 「なんでだよ、まだ決めてから一ヶ月経ってないぞ。……というか、結婚する前だって同じ頻度だっただろ。ちゃんと明文化しただけで……」  朝陽と一郎は社会人で、平日はどうしたって仕事がある。日常生活に支障が出ないようにセーブするのは当然のことだ。 「結婚前は別々に住んでたからしょうがなかったけど、今は毎日一緒にいるからさ、やっぱりいちゃいちゃしたいなあって……」  一郎の耳にぺしゃんと落ち込んでいる犬の耳が見える。彼は優しいから、平時はあまり強く要望を押しつけてくることがない。その代わり朝陽の希望を聞きながら、こうしていいかと甘えながらたずねてくるのだ。その寂しそうな顔で願いを口に出されると庇護欲が湧き上がってきてしまう。こういうのをチョロいというのだとわかっているが、朝陽は思わず小さく悶えてしまった。 「んぐっ……そんな顔しても駄目だ。もし会社に遅刻したらどうするんだ?」 「それは……そうだけど……回数少なくすれば、どうにかならない?」 「回数……?」 「そう。いつも朝陽、五回くらいイっちゃうでしょ? それをそうだなあ、二回に減らせば次の日に支障は出ないんじゃない? あとは時間で決めるとか」  一郎の提案はもっともだった。毎回体力の限界まで愛し合うのだから翌日の午前中動けないのであって、それを律すればどうとでもなる。朝陽だってできることなら平日も一郎と愛し合いたい。 「わかった。時間と回数両方決めるぞ。どっちか来たらしたらその時点で終了。いいな?」 「いいよ。じゃあ、今日は頑張ってセーブしてエッチしようねっ」  一郎が上機嫌になって朝陽を抱き締める。尻に見える犬の尻尾はぶんぶんと振られていて、喜びを表現していた。 「……金髪だから、ゴールデンレトリバー……?」 「ん? なあに?」 「……なんでもない」 ──こいつ、髪の毛もふもふしてるもんな。  そんなことを思いながら、朝陽は一郎を抱き締め返した。  そして、数時間後。 「あ、あ、ひぁっ、っあ! ン、ぁっ、は、ぁっ、きもち、いいっ、ぁ、あッぅ、あっ、ぁッ、ひぅっ!」 「っ……あさひ、かわいい……」  ゆさゆさと身体を揺さぶられる。あまりの気持ちよさに、目に水の膜が張った。脳が何度も甘い電流に刺激されて、頭が真っ白になる。  朝陽は一切の理性を取り払って、一郎の身体に縋った。 「ひゃぁっ! あんっ、はぁっ、ぁンっ、あっ! ふ、ぁっ!? そこっ、よわい、からぁっ! う、ぁんっ、ぁあっ、あ、ぁっ!」 「うん、ここ気持ちいいんだよねっ……? もっといっぱいするから……」 「ちが、っぁ、だめ、すぐ、ひぁっ、イくから、だめっ! まだ、ぅぁっ、イきたく、ないっ……! ぁっ! んァっ、ひぅっ、あっ、ぁあんっ、ぅあっ、んぁ!」  朝陽はもう既に一回達している。ここで達してしまえば、先程決めた回数になってしまう。だが、まだ身体は一郎を求めている。胎は疼いたまま、内壁はもっと男の欲望を寄越せと屹立を離さない。朝陽は達しないように必死に絶頂に至る感覚を逃がそうとする。 「まだ、したいっ……! ぅあっ、んァっ! ぁ、あッ、は、ひ、ぁ! あ、や、イくっ、あ、あ──────!」 「っ、く…………!」  だが与えられる快楽に我慢できるはずもなく、朝陽の性器から白濁が溢れた。内壁が強く屹立を締め上げ、一郎も避妊具越しに欲望を吐き出す。 「っ……ごめん朝陽、でも一回休んだら時間切れになっちゃうから……」  一郎がそう呟いたのと同時に、スマートフォンから音が鳴り響く。朝陽が設定した、終了の時間だ。 「……今日は、ここまでにしよっか」  一郎がずるりと屹立を引き抜こうとする。理性的に考えればそちらの方が正しい。だが、今朝陽の脳味噌は快感で蕩けていた。  両足を使って、離れようとする一郎の腰をホールドする。そして足癖悪くそれを引き寄せて、また肉の壁の中に屹立を沈み込ませた。 「ぁっ! ッン、っあ!」 「ぅあっ……! あ、さひっ……!?」 「いや、だ、まだ、するっ……!」  ぱちゅぱちゅと下手なりに腰を動かして、男の欲を煽る。一度性を吐き出したそれはすぐに硬度を取り戻し、朝陽の内壁をわずかに擦る。 「っ、ダメだって……! 遅刻しないようにって、決めたのにっ……!」 「しない、からぁっ! っあ、ちゃんと、しごといくから、もっとっ……!」 「でもっ……」 「いちろうっ、たのむからっ……もっと、あまやかしてっ……!」  溶かして、人の形が無くなるまで愛してほしい。首の後ろに手を回して彼にそうねだると、一郎は優しく朝陽の口を割り開いて、その中を舌で愛する。 「んっ、ぁ、ふっ……ん、んっ!」  絡んだ舌から熱が伝わっていく。それに溺れていると、唇を離して一郎が朝陽の太ももを掴んで屹立を深く穿った。それは朝陽の肉の壁を何度も擦って、淫らな熱を与え続ける。 「ひゃぁっ! んぁっ、は、う、ぁぁっ! あッ、あっあ、あ!」 「いつからそんなにおねだり上手になったの……? それ言われたら止められないよっ……」 「いちろ、いちろうがっ、おしえたんだろっ……! あンっ、ぅぁっ、ぁんァっ!」 「……そうだね、うん、いいよ。たくさんしよっか。朝ちゃんと起こしてあげるからね……」  ひとつになった番が互いを求め合う。スマートフォンのアラームは、止められないままずっと鳴り続けていた。    次の日の朝。  プルル、とコール音が響く。数秒して、快活な上司のもしもしという声が聞こえてきた。 「あ、お疲れ様です村尾さん……新谷です。あの、今日テレワークにさせてもらえないでしょうか……」 『おっ? いいけど珍しいね~。怪我したとか病気とかなら病院行ってね?』 「病気、というかその……」  翌日、なんとか起きることはできた。できた、のだが。 「ぎ、ぎっくり腰になってしまって……仕事はできるんですが通勤ができなくてですね……」  後のことを考えずに愛し合った結果、腰を痛めて力が入らなくなってしまった。今も布団で横になりながら電話をしている。 『えっ、若いのに大変だねえ……大丈夫?』 「大丈夫です。すみません……。今日は外回りないので何とかなるとは思うんですが……」  テレワークを使うのは会社で推奨されていた時以来だ。一応パソコンやマイクなどの環境は整っている。 『うん、まああっても誰かが代理で行くさ。こういう時は思い切り他の人頼りなさいな』  優しい彼女の言葉に、嘘をついているという罪悪感がのしかかる。けれど、あまりにもセックスをしすぎたせいで腰を痛めましたなんて絶対に言えないのだから仕方ない。 「なにかあれば連絡ください。すぐに連絡つくようにしておくので」 『了解了解。津島くんに責任取ってもらって大人しく看病されな~。じゃあね~』 「な、ちょっ!?」  プツ、と通話が切れる。もしかして、村尾は腰痛の原因まで察しているのだろうか。彼女の場合そうでないと言い切れないのが怖い。だが、もしそうだとしたら恥ずかしすぎる。次会う時にどんな顔をして会えばいいのだ。 「朝陽、大丈夫?」 「……色んな意味で大丈夫じゃない……」  朝陽はうう、と呻きながら枕に顔を押しつけた。一郎もテレワークにして、朝陽の看病をしてくれるという。 「やっぱり、平日はセックスできないな……」  閨事の最中の自分がどれだけ我慢できないかがよくわかった。というかよく考えれば、朝に一郎の腕の中で起きる意志が弱くて一郎とベッドを分けているのだから、それ以上のことで我慢できるはずがない。 「ええっ、次はほら、もう少し制限時間長くしてみるとか、スローセックスにしてみるとか……」 「次やってまた腰痛めたら流石に疑われるだろ……とにかく駄目だ。次の日休みじゃないとできない」  手元のペットボトルを手に取って水を飲む。昨日散々声を出したから少し枯れている。もしかして村尾は声で気づいたのだろうか。 「……じゃあ、その分できる時に頑張るね……」  犬耳がしゅん、と落ち込む。きっとそうなるだろうと思った。 「……一郎、ちょっとこっち来い。顔見せてくれ」 「?」  一郎が朝陽に顔を近づける。彼のふわふわした金色の髪をくしゃくしゃにしてやって、時折瞳を隠す前髪にキスを落とした。 「わ、」 「いつもはできないけど……そのうち、有給取ろう。ラブホ……っていうのがあるんだろ? そこで一日中セックスするんだ」  ただひたすら一郎と愛し合うだけの一日。次の日はひたすらに休んで、ぐだぐだと時間を過ごす。それはきっと何よりも堕落していて、最高の休みになるに違いない。 「……! うんっ! 折角だから高いところ泊まろ! プチ旅行みたいにしたい!」  一郎がぎゅうと朝陽を抱き締める。陽だまりの温もりに包まれて、少しだけ痛みが和らいだ気がした。  ──結局オレ、一郎に甘いんだよな……。お互いに甘いっていうか……。  けれど、それも仕方がない。朝陽の番は一郎なのだから、どうしたって甘やかしたくなってしまうのだ。  本来であれば通勤電車に乗っている時間に横になっている背徳感を覚えながら、朝陽は小さくため息を吐いた。

ともだちにシェアしよう!