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第二章 第十六話 背徳と許し※R18

※R18表現あります。 背徳と許し  一郎の手が朝陽の身体をなぞる。コートを脱がされ、スーツの上から尻をまさぐられた。 「っ、いちろ……ベッドに……」 「ごめん、無理。我慢できない。今すぐ朝陽のことどろどろにしたい」  また口づけを与えられて、一郎の手がベルトを外し、スラックスのチャックを下ろした。 「ん、ん……!」  重力に従ってスラックスが落ちていく。玄関で肌を晒している背徳感がぞくぞくと背筋を駆け巡った。愛する男の手が肌を滑っていく感覚で、性器に熱が溜まっていくのがわかった。 「実はずっと、スーツ姿の朝陽とセックスしたかったんだ」  下着をずり下ろされて、兆した性器があらわになる。それはもう腹につきそうなほど興奮してしまっていて、性器の先端がスーツのジャケットをかすめる。 「待っ、このままだと汚れる、から……! ぁっ!」 「いっぱい汚していいよ。俺が責任取るから」  普段は朝陽を癒し甘やかす声が、朝陽を堕落させようと導く。一郎は朝陽が仕事着を汚してしまうのを気にせずに、性急に快楽を煽り始めた。 「んァっ、うあ、ひぁっ……! いちろ、本当に駄目だからっ……! ん、んんっ……!」  ドアひとつを挟んだ先に外が広がっている玄関で、朝陽は理性と本能の狭間にいた。一郎は蕩けるような口づけで呼吸を奪いながら、片手で朝陽の性器を扱く。  先程から何度も性器の先端がベストの端に当たっている。きっと先走りで濡れてしまっている部分もあるだろう。このまま本格的に汚してしまったらと思うと、感じたことのない背徳が襲ってきた。 「スーツ、汚れるっ……! んぅ、あっ、っ……! あッ、ひぁっ、は、ぁっ!」 「うん。汚していいんだよ。ぐしょぐしょにしていいから」 「っ、だめ、だろっ……! あ、っ!」  ジャケットの一部が濡れて、紺が濃いものになる。仕事着を汚してしまったという事実が、朝陽をまるで粗相をしたかのような感覚に陥らせた。 「だめ、だめっ……! すぐ脱ぐ、からぁっ……!」 「朝陽」  艶を纏った声が、耳元で囁かれる。 「後のことは考えないで。今は俺に全部任せて」  朝陽の熱を高めるように、鈴口をぐりぐりと刺激される。敏感な性器はそれだけで涙を零して、ジャケットに染みを作りながら、太ももにも伝っていく。 「ぁ、んあっ! ぜ、んぶ……? ひぅっ、あぁっ、あンっ!」 「そう、全部。スーツでセックスするの、気持ちいいでしょ? 朝陽、すごく感じてる」 「っ、うぁ、んァっ……!」  汚してはいけない服を汚しながら、一郎に快楽の全てを与えられる。朝陽は、その状況にどうしようもなく興奮していた。何より、一郎が余裕なく朝陽を求めてくれているのが嬉しい。 「き、もち、いいっ……!」 「うん、朝陽は気持ちいいことに素直でいい子だね。じゃあもっと気持ちよくなろうか」  一郎が艶やかに笑んで、性器の雁首を爪で弾くように引っ掻いた。 「ひぁっ!? あッ、ひぅ、ぁ、んァっ、っぅあっ、は、ぁっ、いちろうっ……!」  性器からとめどなく先走りが溢れて玄関に落ちていく。朝陽は力の入らない足をがくがくと震わせながら、自分を快感に狂わせている張本人に縋りついて救いを求めることしかできない。 「いちろ、いちろうっ、ひぅっ、あ、あンっ! んあッ、あぅっ、あ、あ!」 「朝陽……かわいいね。もっとどろどろになって……朝陽のこと、甘やかしたい」  もはやこれは甘やかしの域を超えていることに、鳶色の瞳の男は気づいているのか。過ぎた許しは堕落へと変わって、朝陽を貪婬に落としていく。 「も、だめっ、イくっ……! ぁ、でちゃう、っ……! ァっ、あ、あンっ、ひぁっ!」  だが、腰からせり上がってくる射精感に理性が一瞬だけ戻ってしまった。朝陽の両手は一郎の肩にしがみつくことに使ってしまっていて、欲望を受け止めることができない。 「いちろうっ、助けてっ……せいえき、でるっ……!」  朝陽は涙目で一郎にスーツを汚さぬように願う。朝陽が頼れるのは一郎しかいなかった。 「うん。このまま出していいよ」  だが彼は片手で朝陽の腰を強く抱き、もう片方の手で白濁を溢れさせるために昂っているそれを激しく責め立てた。 「あッ!? ぅあ、あンっ! っあ、っうァ、っぅああっ!」 「好きなだけイっていいよ。責任、取るって言ったでしょ?」  緊張に腿が張り詰める。腰の奥から快楽が昇り詰めてきて、男の声が導くままにそれが爆ぜた。 「んぁっ、ぁ、あっ、あッ──────!」  びゅく、と性器から白が溢れて、朝陽の紺のジャケットに飛び散った。性の香りがべったりとついたそれは、到底人前に出られる恰好ではない。 「っ、は、ぁっ……は……」  汚してしまった。超えてはいけない一線を越えてしまった気がする。それなのに。 「朝陽、上手にイけたね。いい子」  目の前の男が朝陽をいい子だと褒めるから、全てが許されてしまうような錯覚に陥る。 「いち、ろ……もっと……」  もっと身体を暴いてほしい。愛してほしい。朝陽は一郎に縋って、大きな手に手を絡めた。 「うん。このままだといれられないから……ベッド、行こうか」  一郎の手が優しく朝陽の手を引っ張る。玄関には、脱いだままの形のスラックスとコート、ふたり分の鞄が取り残された。 「ぁッひぁっ、ぅあっ! あっあッ、あ、あンっ! ふ、ぁッあ!」  欲望を突き立てられた肉の蕾が収縮を繰り返す。朝陽はジャケットの前を寛げられていた。一郎の指で内壁を愛撫された時に出してしまった精液が、すでにベストを白く汚している。ベッドの上で激しく揺さぶられて、スーツはとっくに皺まみれになってしまっている。社会人になってからこの方、スーツをこんな風に扱ったことはない。下半身は黒の靴下だけを身に着けていて、それがいっそう羞恥と興奮を煽った。 「朝陽、かわいいっ……もっとぐちゃぐちゃになってっ……俺以外見ないでっ……」  余裕のない声が耳に届く。一郎も必要最低限しか衣服を脱いでおらず、汗が着衣に染みていくのが見えた。  一郎は今、朝陽を繋ぎとめようと必死だった。彼にとって何にも代えることができないただひとつの存在が、朝陽なのだと実感させられる。 「すき、すき、朝陽っ……!」 「んっ、んん、ん……!」  情欲に溢れた深い口づけを与えられる。一郎からの愛で溺れ死んでしまいそうだった。彼は朝陽を快楽の海に落としながら、泣きたくなるほどの独占欲を性の形にして穿ってくる。  それが、嬉しかった。普段の朝陽をひたすらに甘やかす一面と、こうしてしがみついて懸命に朝陽を拓いている一面、きっとどちらも一郎の本心の表れなのだと思う。  ──一郎が、オレを欲しがってる。オレだけ、欲しがってる。  一般的な家族の情を与えられてこなかった朝陽にとって、それは至上の喜びだった。もしかしたら歪んでいる感情かもしれないが、朝陽と一郎の間に立ち入れる者などいない。 「あンっ!ひぅっ、ぁっは、ぁふ、ぁッう、ぁぁっ! ひぅっ、あ、あ!」 「俺のっ……俺だけの大事なっ……」  言葉の途中で、はあ、と一郎が艶やかな息を吐く。結婚を決めた日、一郎は自分が朝陽のものであると言ってくれた。ならば。 「っ、うんっ……お前だけの、オレだからっ……オレは、一郎のものだからっ……!」  手を伸ばして、いつも彼がしてくれるようにさらりと一郎の頬を撫でた。この男の全てが愛しい。彼に全てを捧げていい。そう思えた。 「……!」  整った顔が泣きそうに歪む。優しさのあまり人ではないとまで称されている男が手にしたもの。それが、朝陽だった。  一郎が朝陽を甘やかして許してくれるように、朝陽も一郎の強欲を許し続ける。それだけしかできないけれど、それだけは朝陽ができることだ。 「……俺の、あさひ」  頬に触れていた手を取られて、指輪が嵌められている薬指を甘く食まれる。薄い唇は朝陽の言葉を、存在を確かめるように指先へと移って、先端を軽く吸い上げた。 「いち、ろう」  子どものような仕草が愛らしい。視線を交えて、どちらからともなく唇を合わせた。与え合って、貪って、互いに熱を高めていく。唇が離れると、一郎は強く強く朝陽を抱き締めて律動を再開した。 「ひぁっ!? あぅっ、ふぁッ、ぅっぁ、っあン! んあっ、あンっ、っああっ! いちろう、いちろっ……!」 「朝陽……俺の朝陽っ……愛してるっ……こんなに俺のこと欲しがってるっ……!」  一郎の肌からシーツにぽたぽたと汗が落ちる。愚かとしか言えない程愛に堕ちた男は、欲望のまま朝陽の最奥を何度も深く穿った。肉の壁はそれに呼応するように屹立を甘く締め付ける。 「ぁっ、ンぁっ! ふ、ぁッんぁっ、は、ぁぁっ、あッあう、ぁひぅっ、あっぅあっ、も、イくっ……! あ、あ、あっ!」 「うんっ……一緒にイこ、朝陽っ……ふたりで、一緒にっ……!」  高みへと駆けあがっていく。脳が快楽だけに支配されて、悦が頂点にまで達する。頭が真っ白になって、目の前に星が瞬いた。 「あぁっ、ひぁっ、は、ぁあっ、あンっ! あっ、イく、イっちゃ、いちろっ、あ、あ、ぁあっ──────!」  全てが快感の波に飲み込まれて脳がスパークして、全身ががくがくっ! と痙攣した。理性は蒸発し、果てに昇り詰めて戻ってこれない。朝陽は涙を流しながら、性器からはしたなく白を溢れさせる。それは容赦なく紺のベストを汚し、濡らしていった。 「っ、く、ぅっ……!」  一郎が歯を食いしばって身体を震わせる。薄い避妊具越しに彼も欲望を吐き出したのがわかった。  絶頂を終えた身体からくたりと力が抜ける。同じく脱力した一郎がのしかかってきて、重さで小さく呻いてしまった。 「はっ……あさひ、好き……」  大きな手が愛おしげに朝陽を頬を撫でる。カラメルのような鳶色が朝陽を見つめて、こつんと額を合わせた。 「……うん」  世界で一番優しくて、世界で一番重い愛情。けれどその重さすら愛おしくて嬉しいと思えてしまうのだから重症だ。むしろ、これくらいでないと自分の愛情に釣り合わないかもしれない。朝陽は自分の重さに呆れて、小さく笑みを零した。   「……で、それどうするつもりだ?」  朝陽はベッドの上でシーツにくるまっている。一郎の手には体液と皺に塗れた朝陽のスーツがあった。 「えっとね、調べたら洗剤で手洗いだって。皺は……アイロンないからもうクリーニング出すしかないなあ」  俺が持っていくから安心して、と穏やかな笑顔で微笑まれてしまう。数少ない仕事着を汚されてしまった文句は言えなかった。いや、汚したのは朝陽なのだが。 「う……クリーニングには出すのか……」 「あはは……ごめんね。絶対に汚れの方はバレないようにするから」 「……なら、まあ」 「俺これ洗ってくる。ついでに風呂沸かしてくるね。ちょっと待ってて」 「いや、もうシャワーでいい……」  一郎に続いてのろのろと部屋から出る。脱衣所に行こうとしたところで、玄関に取り残された脱ぎっぱなしのコートとスラックスが目に入った。 「……あ、これも皺になっちゃったかも」 「っ…………」  生々しい欲のままの行為の証しを見てしまい、顔が羞恥で赤くなる。玄関で、スーツであんなことをするなんて。もうスーツを着る度に今日のことを思い出してしまいそうで、どうしたらいいのかと思ってしまう。 「スラックスも一応洗うね。朝陽は早くシャワー浴びた方がいいよ」  一郎がスラックスを拾い上げて微笑む。彼は朝陽の世話をするのが相当好きらしい。朝陽は何も言えずにこくんと頷いて、脱衣所へと向かった。ふと、鏡に映った自分の姿が目に入った。赤みが治まっていない自分の顔と、情事の終わりに首筋につけられたひとつの赤い痕。 「……一郎の、もの……」  閨事で伝えた言葉を反芻する。一郎は付き合い始めた当初に比べてすっかりキスマークをつけるのがうまくなった。白い肌に咲くそれが、朝陽が一郎のものであるという証拠だった。  互いを許し合って、独占し合って、それでも一郎は不安かもしれない。そう思うくらい彼は必死だった。朝陽はこれから一生、一郎以外を選ぶつもりなどないのだけれど。 「……もっと、普段からちゃんと言葉にしよう……あと、行動もか……?」 「あれ? 朝陽まだ入ってなかったの? 風邪引いちゃうよ?」 「っ、今入る!」  スーツを洗うために入ってきた一郎にたずねられて逃げるようにバスルームに駆け込む。だが、服を脱いでからさっきの決意を表す考えを思いついてひょこりと脱衣所に顔を出した。 「……一緒に、浴びるか?」 「! いいの?」  一郎の目が爛々と輝く。朝陽から誘われたのが相当嬉しかったのだろう。 「駄目だったら言ってない……」 「じゃあ身体洗いっこしよっ!」 「っ、それ、洗うだけだよな!?」  一郎がすぐに服を脱いでバスルーム入ってくる。彼は朝陽を包み込むように抱き締め、素肌をなぞってきた。朝陽は純粋にシャワーを浴びたかったのだが、一郎はそう取らなかったらしい。 「いちろっ……あっ……」 「朝陽から誘ってくれるなんて嬉しい。全身キレイにしようね、朝陽……」  大きな手が太腿をつうと撫でる。色が混じったその手つきに、朝陽は甘い夜がまだ終わらないことを悟ってしまった。

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