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第二章 第三十一話 復帰と公私混同

「おはようございます」  その日、朝陽は久しぶりに会社に出社した。ようやく指の包帯が取れて、仕事に復帰できるようになったのだ。 「新谷さん!」  駆け寄ってきたのは日浦だった。朝陽が休んでいる間、かなり仕事を代わってくれたらしい。 「新谷さん、大丈夫でしたか!? チンピラに殴られて入院したって聞いた時、生きた心地しませんでしたよ!」 「悪い。迷惑かけたな、日浦」 「迷惑なんて思ってません! 心配してたんです!」 「……そうか、ありがとう」 「新谷くん、もう大丈夫なの?」 「村尾さん、おはようございます。長らく休んでしまい申し訳ありませんでした」  ぺこりと頭を下げる。彼女はにゃはは、と笑って朝陽の肩を叩いた。 「元気になったならよし。復帰したてなんだから仕事はセーブして回すからね?」 「え、いやでも」 「新谷くんにいきなりフルで仕事させたら、お姉さんが津島くんに怒られちゃうでしょ?」 「ふふ、お気遣いありがとうございます、村尾さん」  朝陽の後ろにいた一郎が朗らかに微笑む。彼は朝陽がひとりになることがないように、営業部までついてきたのだ。 「……津島、もうオレは怪我治ったから大丈夫だ。村尾さんも、気にしないでください」 「だめ」 「だーめ」  ふたりに同時に拒否されて、朝陽ははあとため息をつく。 「あのね朝陽、病み上がりって一番体力ないんだよ。徐々に身体慣らしていかないとダメ。自分のこと大事にするって、復帰する前に約束したよね?」 「そうそう津島くんの言う通り。仕事人間の新谷くんには辛いかもしれないけど、無理してまた休むことになったら嫌でしょ?」 「…………はい。っていうか津島、下の名前で呼ぶなって言ったら何回わかる!?」  朝陽と一郎が婚姻関係であることは周知の事実だが、それでも節度は保たなければいけない。朝陽は不機嫌な猫のように一郎を叱りつける。 「いつも呼んでるからつい癖で……ていうか、もう会社にラブラブってバレてるんだからよくない?」 「駄目だ! 公私混同厳禁だ!」 「……バレる前に俺のこと大好きって言いふらしてくれたの、朝陽なのに」 「そっ……れは、状況が違うし、あの時は他の人に言い寄られるのが嫌って言うから……!」 「いやー朝からラブラブを見せつけてくれるねえ」 「俺も恋人とこんな関係になりたいです! 今いないですけど!」  日浦と村尾にそう言われてしまい、顔が羞恥で赤くなる。 「っ……とにかく下の名前で呼ぶな! 次呼んだら家の中でも津島って呼ぶからな! お前も仕事してこい!」 「……はあい」  脅しが聞いたのか、一郎はしぶしぶ納得してデザイン部へ向かう。彼は姿が見えなくなる前に一度振りかえって。 「お昼、食堂で待ってるからね。一緒に食べよ」  そう微笑んで、去ってしまった。  その綺麗な顔に、心臓がきゅうと締め付けられる。 「……っ!」 「すごいラブラブですね!」 「尻に敷かれてると思いきや骨抜きにさせてる……。流石津島くん」 「もうからかうの止めてください……」  朝陽はいつまでも治まらぬ頬の熱を感じながら手で顔を覆う。  これから毎日営業部まで送り迎えされるのだと思うと、恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだった。   

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