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接吻(※)

――紗葉良(さはら)は酷く動揺していた。  それは、当然のことだった。自分が龍弥(りゅうや)の、男のモノを触って奉仕する経験はあってもその逆など一切経験がないからだ。  知り合ってからまだ日も浅く、お互い知っていることなんてほんの僅かしかないのに、斗貴央(ときお)はものすごいスピードで距離を詰めてきて、友達になろうと言ったくせに早くも違う意味で手を出してきた。  紗葉良の情報処理能力はとうに限界を越えていて、ショートする幻聴が耳をすませば聞こえてきそうなほどだった。  斗貴央の大きな掌は喧嘩するときとは比べものにならないくらい優しく紗葉良を撫でている。  紗葉良の耳元には飢えた獣のような荒い息が聞こえているのに、その手は別の生き物のように優しくゆっくりと紗葉良の白い肌を心地好さそうに泳いでいた。  首筋を吸われ、鎖骨を甘噛みされ、紗葉良は恥ずかしさでどうにかなりそうだった。  服を全部脱いだのは自分のくせに今更それを酷く後悔している。誘うつもりで脱いだのではなく、目を覚まして貰うために脱いだ。なのに全て裏目に出てしまったどころか自分をただ窮地に追い込んだだけだった。  太腿の内側の柔らかいところを優しくゆっくり撫で回されたかと思うといきなり強く揉まれ、そのまま指は肌を伝って紗葉良自身を掠める。 「斗貴っ……」  驚いて出た抵抗の声は相手の唇によって塞がれた。まだ慣れない斗貴央のキスはぎこちなかったけれど、なぜか()れられるだけで紗葉良の胸の奥はジンジンと熱くなり、触られている敏感な場所へと熱が届いて行くようだった。  斗貴央は全く抵抗がないのか、自慰でもするみたいに容易に紗葉良自身を愛撫した。女の身体ではこうはいかなかったろうと斗貴央は僅かに残る理性の中でぼんやり考えていた。  自分が普段やるみたいに握って擦り撫でるだけで紗葉良の色白で整った顔はピンク色に染まり少し汗ばんで、苦しそうに目を瞑ったまま湿った吐息を漏らす。そのたび動く唇が、自分のしたキスのせいで濡れていて酷く淫靡に斗貴央には思えた。  自分の中心がズボンの中で窮屈そうに我慢しているのがわかった。でもそれを紗葉良に見せる勇気はまだなくて、斗貴央は紗葉良の唇を乱暴に奪って意識を逸らした。紗葉良の薄い舌を絡め取るとそれに比例して紗葉良自身もビクビクと気持ち良さげに反応した。  強く握ったり早く擦ったり、先の部分を指で刺激すると紗葉良はだめ、だめ、といやらしく掠れた声で何度も鳴いた。それが逆に斗貴央を暴走させていることを紗葉良は全く理解していなかった。手の動きを早めてどんどん追い詰めると紗葉良はもう限界らしく、声もなくなり辛そうに眉を下げ、唇を噛み締めていた。  紗葉良の細い指が斗貴央の着ているシャツに食い込み、皺を寄せる。薄っすらとたまに開く大きな瞳は涙で滲んでいて艶かしくてすごく綺麗だと斗貴央は思った。 「もっ、だめ……っ、斗貴央、あ……っ」  紗葉良の内腿はビクビクと痙攣し、肩を竦ませ、一瞬息が詰まる音がした。 「……あっ、ああっ」と紗葉良は短く鳴いては斗貴央の手の中に自分の精を全て吐き出した。 「もう……、馬鹿野郎……」  羞恥で今にも泣きそうになっている紗葉良はそれを隠すように両手で顔を覆った。斗貴央はひどく満足そうに笑って額にやさしく口付ける。 「紗葉良って、マジかわいいな」  あまりにも呑気な発言に紗葉良は涙で濡れた瞳のままギロリと斗貴央を本気で睨んだ。

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