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抱擁(※)

 恥ずかしさも一周回って怒りに変化したらしい紗葉良(さはら)は、獰猛な獣のように斗貴央(ときお)に襲いかかると半泣きになっている相手を無視してズボンをひん剥いた。  斗貴央は下半身だけ何も着ていない、心もとない状態にされ、診察台にでも乗せられたかのように不安げに天井を仰いだ。  心境が手に現れているのか、置き場所を失った両手は自分の胸の前で祈るように組まれている。  相手の動揺など気にも留めないかのように紗葉良は慣れた仕草で斗貴央のすでに硬く勃ち上がった中心を握り、自分がされたようにしつこく強めに扱いた。  他人の手が、しかもあの紗葉良の手が自分のものに触っているかと思うと斗貴央はそれだけで全身の血液が沸騰してしまいそうにクラクラした。 「あっ!」と斗貴央が情けない声を出すので紗葉良は思わず手を止めた。 「もう無理そう?」 「――はいッ」  なぜか敬語で素直に答える斗貴央が可愛らしくて、紗葉良は相手には聞こえないように小さく笑った。 「もう少し、我慢出来る?」 「え?」と聞き直したと同じタイミングで紗葉良はパクリと斗貴央自身を口に含んだ。  初めての感触に斗貴央は事態をよく飲み込めない。なんとか頭を浮かせて下半身を覗くと、ものすごい光景がそこには広がっていて、斗貴央は最早失神寸前だった。紗葉良の頭が上下するたび、卑猥な音が耳にまで届く。  さっきまで恥ずかしそうに震えていた可愛げのある紗葉良は別人だったのではないかと思うくらいの大胆さだった。躊躇なく紗葉良は斗貴央の性器を口に含んでは、くびれた場所をくるりと舌で撫でてみたり擦りながら先を責めたりと容赦なかった。初心者の斗貴央にはレベルと刺激が過ぎて、肉食動物の前に出されたうさぎのように縮こまってされるがままになるしかなかった。 ――もう、ヤバイ。  訴える暇もなく斗貴央はあっさりと紗葉良の中で果ててしまった。「はぁ〜」となんだか抜けた声も一緒に出て恥ずかしい。  突然のことに準備出来ていなかった紗葉良は気管に少し入ってしまったらしく、激しく咳き込む。 「ごごごごごめんなさい!!!!」  斗貴央は慌てて起き上がり、ティッシュ箱を取って紗葉良の顔や手を丁寧に拭く。 「もっ、言ってよ、びっくりしたぁ〜」  紗葉良は涙目になりながら呼吸をゆっくり整えている。斗貴央はなぜか驚いたような顔をしたまま言葉を失っていた。 「――斗貴央?」  心配そうに紗葉良が声を掛けると、今まで見開いていた目はくにゃくにゃと細くなり今にも泣き出しそうだった。 「俺、紗葉良を怒らせたかと思ったよぉ〜、ビビったぁ〜」  斗貴央は気が抜けたのかコテンと横向きでベッドに倒れ込む。まだ半分起きたままの下半身を隠す余裕も今はないようだ。  その横で紗葉良はちょこんと正座している。こちらに至っては今更どうにもこうにも出来ない全裸待機である。 「なんで、俺が怒るの?口の中で出したから?」 「――はい」  また敬語、と紗葉良は内心つっこんだが声にはせず、横になった斗貴央の頭をヨシヨシと撫でた。いつも見上げたところにあった顔が、今は自分より下にあって、子犬のような潤んだ瞳でこちらを見上げている。  なんだか不思議な感覚に自然と紗葉良からは笑みが溢れる。  撫でていた手をふいに掴まれ、上から節のしっかりした大きな手で指と指を絡ませるように握られた。紗葉良は自分の胸がまた高鳴るのがわかった。  ゆっくり手を引かれ、そのまま抵抗もなく紗葉良は自分の身体を斗貴央の腕の中に預けた。頰に触れた素肌を阻むシャツの存在がじれったくて「これ脱がないの?」と拗ねたように問うと斗貴央はインナーごと剥いで床に投げ捨てた。  改めてもう一度その腕の中に滑り込む。想像以上に他人の、斗貴央の肌は気持ちよくて紗葉良は思わず安堵のような吐息を漏らした。それに斗貴央の下半身が反応したのを紗葉良は見逃さなかったが気付かないふりをしてしばらくは抱擁を楽しんだ。  斗貴央の身体はやんちゃな少年時代を物語るようにあちらこちらに怪我の跡があった。最近作ったであろう内出血の数々が痛々しい。 「もうケンカなんて辞めてよ。こんな傷跡もう見たくないよ」 「うん……。俺も紗葉良とか、あいつの事とか、巻き込んで、ようやく目が覚めた。本当、ごめん」  紗葉良を抱き締める力が少し強くなる。紗葉良は頷いてそれに答えるように斗貴央の背中を抱いた。

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