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特別
あまりにもキスに夢中になっていたら下になった紗葉良に「重い、苦しい」と嘆かれた。斗貴央はガバリと大きな身体を起こすと紗葉良の横に並ぶよう仰向きで倒れた。
なに、この状態。と紗葉良は内心鼻白むが気を取り直して斗貴央の上に容赦なく乗っかってみる。案の定斗貴央はこの展開に狼狽え、目がどこまでも泳いで行っている。
「斗貴央って、本当かわいいね」と紗葉良は眩しそうに目を細めて微笑む。
人生で初めてそんなことを言われた。しかもこんな大きくなってから。
「俺のどこがかわいいんだよ、紗葉良の視力ヤバイぞ!」
「外見の問題じゃなくてさ、なんだか全体的に?胸が躍るってこういうことを言うんだろうな、俺、こういう感覚初めてかもしれない」
紗葉良はくすぐったそうに笑っていた。
ずっと辛そうな顔ばかり見ていたけれど、本屋や道すがら話した時の紗葉良をふと思い出す。からりとした明るい雰囲気の、これが本当の紗葉良なんだろうと斗貴央は合点がいく。
「俺は紗葉良の外見も中身もかわいいってずっと思ってたよ」
計算などしない、出来ない斗貴央はサラリと本心からそんな事を微笑みながら言ってのける。なんてタチの悪い男だろうかと紗葉良が眉をひそめると、何かおかしな事を言ったかなと斗貴央は首を傾げていた。
なんだか腹が立ったので紗葉良は斗貴央の鼻先を噛んだ。思ったより効いたのか斗貴央は痛いよ、と喚いていた。そのまま唇をずらして口付ける。
斗貴央が上に乗った紗葉良の身体をぴったりと肌に合わせるように抱きしめるから紗葉良の硬くなり掛けてるものが斗貴央の腹筋に当たって、反対に紗葉良の太腿にはもうすでに熱を取り戻したものがすごいアピールで当たってくる。いきなり両手で尻を鷲掴みにされて紗葉良は短い悲鳴のような声を出してしまう。好き勝手に揉みくちゃにされて長い指が後ろ側の敏感な場所に触れて紗葉良は思わず身体を硬くした。
「だめ!」
「なんで?」
「なんでって……」
「あいつと違うことしてえ、俺、紗葉良としたいよ……ちゃんと責任、取るから……」
一体男の俺に、しかもこんな子供同士で何を責任が取れるのかと、紗葉良は呆れないわけではなかったが、真剣な目をした斗貴央がそう告げるから、許す以外の選択肢に辿り着かなかった。
「本当、ズルいよ。斗貴央って」
ため息混じりに紗葉良がそう告げると斗貴央は心底幸せそうに笑った。
――ああ、本当、ズルい。と紗葉良はもう一度心の中で繰り返す。
自分はとっくにこの男にハマってしまっていたんだと紗葉良は気付かされる。
毎日同じことの繰り返し、好きな男が他の女と仲良くしているのを近くで見せつけられて、自分は傷なんて付いていませんみたいな平気な顔をしてみせて。本当は何度も飽きるくらいに傷付いたし好きになったことも後悔した。夏奈が現れるまでは仲の良い友達同士だった時期もあった。いつからか、龍弥は自分に背中ばかり見せるようになった。それに合わせて卑屈な自分ばかり浮き彫りになっていって、酷い悪循環を繰り返した。
初めて龍弥に口で咥えろと言われた時に断っていれば未来は少し違ったのかもしれないと何度も後悔したけれど。もうこれ以上誰かに見捨てられるのが怖かった。
だけどずっと、紗葉良は選択肢を間違えたのだと龍弥の遠くなっていく背中を見て思い知るしかなかった。
少し鋭い目つきが龍弥に似ていた――。
だけど、斗貴央は大きな身体を丸くして自分に優しく声を掛けてくれた。店の人に預けてしまえばそれで終わっていた落し物を彼は心配そうに手に持ち、紗葉良を探し、戻って来るのを待っていてくれた。斗貴央はきっと、自分が女でなくても、子供でも、男でも、同じように持ち主を探すのだろうと紗葉良は確信していた。
こんな優しい男に、男の自分でもやはり好きだと言われて、なびかないほど自分は強くないし、何よりずっとずっと、愛されることに飢えていた。
斗貴央の本気を試すようなことをして、一瞬反応がなかった時、一番応えたのは自分自身だった。その時に思い知ったのだ。自分の中の斗貴央の存在を――。
「よかった――」
不意に紗葉良はポツリとため息のように漏らす。
「なに――?」
「秘密です」
「なんだよ、気になるな、なんだよ」
紗葉良が誤魔化すように斗貴央にキスをしてもしばらくブツブツ文句を言っているのが聞こえたが「しつこいな、今はこっちだろ?」と斗貴央のすでに臨戦態勢の急所をきゅっと握って意識を無理矢理にそらせた。思ったよりきつかったのか、少し涙目だったのでやり過ぎたかなと紗葉良は小さく反省しておいた。
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