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幸福(※)

 セックスの知識などなかった。それも男同士なんて尚更どうして良いのか本音を言うとわからない。斗貴央は普段使いもしない脳味噌をフル回転させているものだから頭のネジが摩擦熱で抜けてショートしてしまいそうだった。  だけど抱き合ったり、キスし合ったり、触り合ったりしているだけで心がポカポカして気持ちが良かった。快感とか刺激とはまた別の気持ち良さだ。こんなことを友達に話したら「キモい」と一蹴されて終わるだろう。紗葉良に話したら?――きっとあの綺麗な笑顔で同意してくれるはずだ。 ――だよ、な?  少し不安げに斗貴央は紗葉良を見つめた。どうしたの?と聞かれ「幸せ、です」と照れながら答えたら、あの綺麗な笑顔が本物になった。 「――うん」  嬉しくて、斗貴央は泣いてしまうかと思った。それを紗葉良は気付いていたのだろう、斗貴央の鼻先に口付け、額を合わせ「じゃあ、もっと幸せなことしよう?」と自らその先を求め、斗貴央を誘い出した。  紗葉良の狭い場所がセックスするためにあるわけじゃないことは理解していた。なのに――――めちゃくそ、エロい、です。  ワセリンを付けた斗貴央の長い指は苦しそうに紗葉良の中に入って行った。縁をなぞるだけで紗葉良は爪先をビクビクさせてその度に斗貴央は鼓動が早くなる気がした。枕を胸に抱いて恥ずかしさを必死に散らそうと紗葉良はしている。 「ねぇ、顔、見えないよ」 「見せないように、してんのっ、やっ!」  中でくるりと指を回すと紗葉良が腰を浮かせて反応した。ここが気持ち良いんだとわかると斗貴央は嬉しそうに指の腹でそこを撫でた。 「もっ、だめ、やめてっ、やっ……」  力が抜けそうになっている紗葉良から枕を奪い取って口付ける。こじ開けた口の中がひどく濡れていて斗貴央はさらに興奮してしまった。そのまま首筋まで舌を這わせてツンと上向いた乳首を舌で遊ばせると紗葉良は赤く染まった顔の横でシーツを握りしめ、唇を噛んで漏れる声を必死に抑えていた。それに気付いた斗貴央は胸への愛撫も中にある指の動きも更に強めては紗葉良を責めた。 「斗貴央ッ、だめ、あっ!」  中にいた指が二本に増えて紗葉良は声を失った。ぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てて長く太い指は紗葉良の中を行き来した。紗葉良の中心にある勃ち上がった場所からぬるぬると雫が漏れていて、ぺろりと斗貴央が長い舌で舐めとると、今まで以上に中がわなないた。  斗貴央は何度もひとりでに達しそうになるのを堪えては紗葉良の身体を味わった。どんなに指でほぐしても、とてもそこへ自分自身を埋めるのは無理だろうと斗貴央は半ば諦めていた。本当は何よりもそのことばかりが頭を占領していたが、紗葉良が気持ち良さそうにのぼせた細い身体を揺らしているのを眺めていると、この身体を絶対に傷付けたくないと、そちらの思いのが強かった。  長く見つめていたから紗葉良に心を読まれたのかもしれない、涙で滲んだ瞳の紗葉良と目が合う。 「……斗貴、央」 「うん?」 「いいよ……?しよう。挿れて、いいよ」  恐ろしいほどに甘い誘惑の言葉だ。本当は何よりもそれを欲していたけれど、いざ言葉にされると怖くて腰が引ける。 「紗葉良、絶対辛いよ……」  龍弥と違う、特別なことがしたいと言い出したのは自分のくせに、ここにきて怖じ気付いてしまっていた。 「いいよ、辛くてもいい。好きだからいい」  上気した薄っすら汗ばんだ顔のまま、紗葉良は優しく笑ってみせた。そのまま細い両腕を斗貴央の首へ回す。紗葉良に引き寄せられ、お互い早く打つ心臓が重なる。 「大好き、斗貴央」 「……ありがとう」  斗貴央の紡いだ声が耳のそばで愛おしそうに響き、紗葉良は一瞬驚いたような顔をしたが、その言葉を噛みしめるようにゆっくり瞼を閉じた。 「俺こそ、ありがとう。斗貴央」 ――あの時出会ってくれて、ずっと動けずにいた自分を連れ出してくれて、そして、こんなに好きになってくれて――ありがとう。 ―――――――――― 「信じられない、痛いって言ったのに、動くなって言ったのに、本気で言ったのに」  ものすごい早口で背中を向けながら紗葉良は告げた。 「ごめん――」 「謝るくらいなら最初からすんな、すごい痛い、もう絶対避けたから」  紗葉良がこんなに感情的で怒っている声を聞くのは初めてだった。  斗貴央は途中まではそれなりに我慢も努力も紳士的にしていたつもりなのだが、最後らへんはもう夢中になりすぎて紗葉良が拒絶する間も与えない程にひたすらに追い詰めた。  追い詰めるだけ追い詰めてゴールしたら最後は爆睡だ。なかなかにゲスだったと我ながら思う。 「ごめん、本当に、ごめん。ごめんなさい」  残念ながら当初予定していた言葉とは違う言葉の連呼になってしまった。  恐る恐る後ろから紗葉良をゆっくり抱きしめるとくるりと身体をこちらに返して正面から抱きつかれた。違うところが早くも反応してしまって冷や汗が出た。 「もうそっちはダメ、我慢して」 「はい、すみません!します!」  謝罪の言葉がわりのように紗葉良の身体を抱きしめ、頭や背中を何度も撫でた。今いる腕の中の相手をもっと大切にしなきゃダメだと自らも戒めた。 「斗貴央」 「はいッ」 「今度は――俺の家でしようね」  さっきとは違う甘ったるい声で紗葉良は斗貴央の胸に頭をうずめながら呟いた。その感動の言葉にどんより曇っていた斗貴央の顔も心も最上級に晴れ渡る。そこに含まれた些細なあざとさなど斗貴央にはどうでも良かった。 「はい!喜んで!!」 「――居酒屋?」  現金な斗貴央に紗葉良は半ば呆れつつもそんな斗貴央をやはりかわいいと思ってしまう自分が一番どうしようもないなと降参してみせた。

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