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変化

――好きな人と両想いになった。  斗貴央(ときお)にとって人生初の快挙で、なにもかもが初めてのことだらけでまさに毎日が狂喜乱舞、乱れ舞い過ぎてなんだか足元もフラフラしていた。  それ、単にヤり過ぎなんじゃないの?って冷めた声で紗葉良に言い捨てられたことは敢えてスルーだ。 「おはよー」  斗貴央が浮かれた足で教室に入ると友人の吉野が机に突っ伏し、それを慰めるようにもう一人の友人、松屋が立っていた。 「あれ?よっちん、どーしたの?」 「おー、斗貴央。こいつ彼女にフラれたの」 「うるさいっ!言うなッ!」 「なんだよ、恋愛しろだとか、彼女作って潤えとか偉そーに言ってたくせに」  斗貴央は呆れ返るように落ち込む友人から離れ自分の席に進んだ。それを追いかけるようにすぐさま吉野が迫ってくる。 「騙されるなよ斗貴央!女はしたたかだぞ!」 「意味わかって使ってんのか、お前」と、すかさず松屋は吉野に突っ込む。 「なに?浮気?」なぜか斗貴央は松屋に尋ねた。 「最初からな、二股だったらしいわ」  吉野は悔しげに歯を食いしばり、それも話すのかと松屋を恨めしそうに睨んでいた。 「よっちん、もう諦めるの?」  斗貴央の思いもよらなかった返しに友人たちはそれぞれ驚いた表情をした。 「いや、諦めるもなにも、俺はふるいから落ちたの!」 「でも好きなんだろ?」斗貴央は真剣な表情のまま食い下がらない。 「二股するような女をかぁ?!」 「だって、かわいいって俺に自慢してたじゃん」 「それは、化けの皮がくっついてる時の話!」 「剥がれたら嫌になんの?」  友人たちは明らかに今までの斗貴央とは違う反応に狼狽え、吉野からは明らかに苛立ちが見えた。 「何なの斗貴央!俺を責めてんの?二股されてたのは俺なんだけど?!お前に俺の何がわかんの?誰とも付き合うどころか誰のことも好きなったこともないような喧嘩バカにさ!」 「吉野、やめろ」  松屋の制止は遅かった。すでに斗貴央は吉野の胸倉を掴みあげている。本当に斗貴央の喧嘩に対する瞬発力は尋常じゃないなと妙なところで松屋は感心してしまっていた。 「俺だったら、一番になるまで諦めるねぇよ!」  斗貴央の興奮した強い声にクラスメイトたちが喧嘩か?とザワつき始めた。松屋はそれに気付き二人の間に肩を割って仲裁に入る。 「俺だったら、諦めない。負けたくない。負けたりしねーよ。――あんな、奴に……」  吉野は斗貴央が自分のことでなく特定の誰かを思い起こして話していることに気付き、怒りよりも疑問の顔を浮かべた。 「誰の話……?」 「あ゛ーっ!!思い出したらイライラしてきたぁ!折角乱舞ってたのにぃ!」  斗貴央は吉野の余韻を折るように喚きだした。すでに興味は吉野から自分自身の問題に移行したようで、吉野を掴んでいた手はすでに自分自身の頭を乱暴に掻きむしっている。 「ら、らんぶ?え?なに??」吉野はその展開の早さにすでに置いてけぼりだ。松屋は教室を出て行こうとする斗貴央に慌てて声を掛ける。 「どこ行くんだよ、斗貴央!」 「便所!」  無駄に肩で風を切りながら教室を出て行くいつもと何かが違う友人を二人は神妙な面持ちで見送った。 「――大丈夫かよ、あいつ」 「殴られすぎてアレしたか?」  友人二人には想像も付いていなかった。  毎日喧嘩ばかりして、恋愛沙汰には全くもって無縁だったあの斗貴央が、ある日一目で恋に落ち、それが化けの皮だと分かっても尚、その恋の火は消えるどころか轟々と燃え続け、最後の最後は斗貴央が相手の全てを手に入れたなんてことを――

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