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第3話

「お、今日の弁当も美味そうだな。ハンバーグか」 「毎日毎日、覗いてくるのやめろよな」 「見ても減るもんじゃないし別にいいだろ。これも俺のルーティーンなんだし」 「偉そうに言ってんじゃねえよ」 「おー怖い怖い!俺もハンバーグ弁当買ってこよっと」 同期の和田は、同じ営業部に所蔵している。 元々野球をしていたことから体格が良く爽やかな容姿をしていて 女性人気が高い。 持ち前の明るさで上司や取引先からも評価されており、 若手営業マンのエースとも言える存在だ。 営業マン達は大抵、午前中のうちに社内ミーティングへ参加したり自分のデスクで仕事を片付けたりした後 午後は外回りに出てそのまま直帰することが多い。 人見知りの俺からしてみれば、外回りなんて苦痛以外の何者でもないが 和田からすると、俺みたいに1日中デスクに座っている方が耐えられないらしい。 毎日毎日、俺の弁当をチェックしてから 自分の昼食メニューを決める、という謎のルーティーンを作っている和田は どんなに忙しくても、外回りに行く前に必ず俺に話しかけてくるのだ。 見るだけならまだいいんだけど、和田の声が馬鹿みたいにデカすぎるせいで 俺の弁当の中身がフロア全体にバレてしまうから恥ずかしい。 「ふふ、お二人ともほんと仲良しですよね」 「そうでもないよ、同期入社が2人しかいないからさ。俺ぐらいしか絡む相手がいないんでしょ」 隣のデスクの山本ちゃんにクスクス笑われる始末だ。 この子は昨年入社したばかりで、営業事務の先輩である俺が指導担当をしている。 多少ドジな部分はあるが、頑張り屋さんでとてもいい子だ。 「伊藤さんってまだ料理教室通われてるんですか?」 「うん、何気に3ヶ月続いてるよ。自分でもびっくりしてる」 「すごいですよね、私も毎日伊藤さんのお弁当覗いてますけど、前よりも映えている感じがしますよ!」 「山本ちゃんまで…。でも確かに、野菜の使い方が上手くなったかもしれないな」 言われてみれば確かに、味付けの幅が広がったことで 以前よりも主菜と副菜のバランスがうまく取れるようになった気がする。 冷蔵庫の中身を無駄にせず効率的に消費できるようになったのも、 Cooking POPのお陰かもしれない。 「山本ちゃんもどっか通ってみたら?」 「えー、私はヨガだけで精一杯ですよ〜」 「あはは、運動する習慣も大事だもんね」 山本ちゃんは毎日コンビニ弁当だから、栄養バランスが若干心配になるが そこまで口を出すのはお節介すぎるだろうし、見守るだけである。 まだまだ若いし大丈夫だろう。 「今日も料理教室行くんですよね?」 「うん!だから絶対定時に上がらせてもらうよ」 「承知です!残業はさせません!残りの仕事はお任せあれ!」 「頼もしい後輩を持ったなぁ、ありがとう」 今は業務も落ち着いている時期だから、定時で上がっても支障はない。 残業を美徳とする社風じゃなくて本当に良かったと思っている。 ゆっくりお弁当を堪能して、コーヒーで一息ついてから また午後の業務に取り掛かるのであった。
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