7 / 14
第7話
「では、みなさんまた来週〜!」
「お疲れ様〜」
「お疲れ様でした!」
挨拶を交わし、皆それぞれ帰路につく。
餃子のお土産がある今日は、冷えたビールでも買って帰ろうかと気分が軽い。
ひとりワクワクしていると
及川さんが一人、周囲の流れから少しだけ外れて立っていた。
気になって、自然と声が出る。
「今日はお疲れ様でした。及川さんはどちらから帰るんですか?」
「このまま徒歩で帰ります。ここが最寄駅なので」
「えっ同じですね! 俺は南口なんですけど」
「俺は東口の方です。…よかったら、途中までご一緒しても?」
「もちろんです!」
ショッピングモールを抜けて駅まで歩く。
距離にすればすぐだが、店舗を眺めながら歩くとそれなりに時間がかかる。
ここを誰かと並んで歩くのは初めてだった。
気まずさを埋めようと、自然と口数が増えてしまう。
「…あ、もう夏服が出始めてますね。今年は暑くなるのかな〜」
「春もすぐ過ぎそうですね」
「おっ、スナバ新作出てたんだ。及川さん、コーヒーとか飲みます?」
「ブラックが苦手なので、ラテをよく飲みます」
「へぇ〜、なんか意外かも。あ、この行列すごいですね。何のお店だっけ…」
…目についたものを話題に出す作戦で乗り切ろうとしているの、バレてるかな。
テンポよく返ってくる相槌に助けられながらも、会話が続いているというより
自分ばかり話している気がして落ち着かない。
うざいと思われてないかな。
「…なんか、ずっと喋っちゃってすみません、うるさかったら言ってくださいね」
「いえ、とても楽しいです」
気を遣わせてしまったみたい。
嫌がられてはないみたいでホッとしたのも束の間、
及川さんが歩きながら言葉を続けた。
「…いつも通る場所でも、誰かと一緒だと見え方が違っていいですね」
「…及川さんって、言葉選びが素敵ですね」
「遥希さんも、楽しみを見つけるのが上手だと思いますよ」
「なんかちょっと照れくさいです、でもありがとうございます」
いい大人がお互いに気を遣い、褒め合っている。
静かだけど、でも悪くない雰囲気が流れているのを感じる。
やがて駅の改札が見えてきて、歩調がゆっくりになる。
「じゃあ俺はこの辺で。スーパーでビール買って帰ります」
「いいですね。今日は色々教えていただいて、ありがとうございました」
「こちらこそ!男性の会員さんが増えて本当に嬉しいです。これから一緒に頑張りましょうね」
「はい、ぜひ。…遥希さんのように、上手くなれたらいいんですが」
「俺なんてまだまだですよ〜。でも、及川さんならすぐに上達すると思います」
「そう言っていただけてありがたいです。また来週、楽しみにしています」
その言葉とともに、及川さんがふと微笑んだ。
静かな眼差しはそのまま、口元だけが柔らかくほぐれる。
その仕草に、不意打ちのように胸が騒ぐ。
「はい。また来週」
軽く手を振って、改札をくぐる。
俺、最後変な顔してなかったかな。
足取りがほんの少しだけ弾んでいるのを感じながら、帰路についた。
ともだちにシェアしよう!

