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第11話
今日のメニューはエビチリ。
実は中華料理では無いとか何とかー。
諸説あるものの、人気料理であることに変わりはない。
とにかく需要が高いということで、今回のレッスンに取り入れられたらしい。
遥希自身、
冷凍されたエビと市販の調味料を使って、何度か家で作ったことはあるものの
最初から自分で調理するのは初めてだ。
味付けはもちろんのこと、下処理をきちんとしないと生臭くなってしまうので
慎重に扱わねば…といつにもまして気合が入る。
アカリ先生が事前に撮影してくれた動画を皆で繰り返し見ながら
各グループに分かれて調理をスタートする。
今日、同じグループになったマダム達は多少経験があるので
エビの扱いに不慣れな男性会員二人へ、作業を譲ってくれた。
「及川さん、えびは好きですか?」
「はい、自分で調理するのは初めてですが」
「俺もです。力加減間違えたら型崩れしそうで怖いですよね」
まず殻を剥く工程から苦労しそうである。
まな板の上で横たわるエビを見ながら、若干の申し訳なさを感じているとーー
「お二人さん、大丈夫?」
同じグループの町田さんが見かねて声をかけてくれた。
「いやー、殻を剥くのに身を潰しちゃいそうで…」
「包丁でうまく出来ないなら、フォークを使うのがおすすめよ🎵」
「え、そんなやり方もあるんですね」
「本当は先生のお手本みたいに、包丁で出来るのが理想だけどね。無理して怪我しちゃうよりは、フォークで剥くのもいいと思うわよ☆」
「ありがとうございます!教えてほしいです」
いつも揶揄われることが多いが、こういう場面では主婦の力にかなわない。
「まずはこうやってー。背中に沿ってフォークを差し入れて、左手で身を持ちながらゆっくりフォークを持ち上げたらーー」
「わっすごい!」
気持ちいいぐらい、ペリッと綺麗に殻が剥けている。
「これなら二人も出来そうかしら?」
「やってみます!頑張りましょうね及川さん!」
「はい、頑張りましょう」
エビチリ用に準備されているので、少々小ぶりのえびが20匹ほど並んでいる。
半分ずつに分けてから、早速二人で取り掛かる。
最初は慎重に扱いすぎて時間がかかったものの、途中からは手際よく進められるようになった。
流石に背ワタを取るときは包丁を使用したが、お刺身を切るような力加減で扱えばうまくいった。
チラリと横を見ると、及川も黙々と取り組んでいてーー
意外と手先器用なんだよなと感心する。
「出来ました!」
「すごい、早いじゃないの!後は任せてちょうだいね☆」
「よろしくお願いします」
衣付けから火入れ・味付けは町田さん達を中心に、
要所要所で男性陣にも工程を任せてくれて、皆で団結して完成させることが出来た。
「うわ〜おいしそ〜」
今まで家で作ったものとは比べ物にならないぐらい、
つやつやで美しいエビチリに、思わず見惚れてしまう。
「出来上がったグループから、試食しちゃっていいですよ〜」
アカリ先生の掛け声を合図に
各グループで試食の準備をする。
「「「いただきま〜す」」」
口に入れた瞬間、ふわりと広がる甘酸っぱい香り。
弾けるえびの食感と、ほどよい辛みのあるソースが絡んで、思わず目を細める。
「うんま〜!なんでこんなにぷりぷりになるんですか?」
「下処理の段階で、しっかり片栗粉をつけておくのが重要なの。ソースにあえてもべちゃべちゃしにくくなるから、エビチリ以外でもやってみてね」
「あ、確かにお肉焼くときもやってました。同じ原理なんだ〜」
アカリ先生のアドバイスは、日常生活にも役立つから本当にありがたい。
皆で談笑しながら食べ進めていたら、あっという間に無くなった。
「ごちそうさまでした〜おいしかった」
大満足した後は、片付けを頑張ろうと張り切っているとーー
「遥希さん、口にソースが」
「へ?」
隣にいた及川に指摘され、思わず目を合わせる。
「少し、じっとしててください」
そのまま指先が伸びてきて、遥希の唇の端を、そっと拭う。
反射的に瞬きした後ーー
「…取れました」
ホッとしたように、ほんの少しだけ緩む口元。
次第に状況を理解した遥希はーー
「うわっごめんなさい!ほんと恥ずかしい!手まで汚しちゃって」
ボボボと一気に顔が赤くなるのを感じながら
慌ててティッシュを取り、及川の指先を拭う。
その流れでつい、両手を握りしめていることに気づく。
「わ、すみません!勝手に触って…」
咄嗟に動いたことで、より恥ずかしさが増す結果に。
「いえ。ありがとうございます」
「…何のお礼ですか、それ」
穴があったら入りたいとは、まさにこのことである。
その後は、顔の熱が引かないのを感じながら、皿洗いに没頭する遥希であった。
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