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第12話

「二人とも今日はグッジョブだったわね☆お疲れ様」 「ほんと勉強になりました、ありがとうございました!」 「また来週もよろしくお願いします」 「勿論よ〜」 同じグループの町田さんたちと挨拶を交わし、帰路につく。 なんだか今日は、アタフタしてばかりでいつもより疲労を感じる。 気を取り直してビールでも買おうかと考えているとーー。 「遥希さん、途中までご一緒してもいいですか?」 「はい、是非是非」 先週と同様、及川と駅へ向かうことになった。 ショッピングモール内とはいえ、真冬ではない為暖房は効いておらず、若干の肌寒さを感じる。 無意識に手を擦り合わせながら歩みを進めていると。 「遥希さん、何か羽織るものは?」 「いや、それが今日は持ってなくて…。今朝は日差しがさしてポカポカだったんで、油断してました。あはは」 「少し冷えるでしょう?良かったらこれ着てください」 「えええそんな!このぐらい平気です!走って帰ればあったまるし」 羽織っていたコートを差し出そうとする及川を、慌てて止める。 「そうですか、風邪を引かないか心配ですが」 「気を遣わせてすみません。結構頑丈なので大丈夫ですよ」 何だかお世話されてばっかりで恥ずかしいし、申し訳ない。 薄着の人間が横にいるとどうしても気になるだろうなと思い、心配かけまいとなるべく明るく振る舞う。 ポツポツと雑談を交わしながら歩いていると、一際賑わっている店が目に入る。 今年に入って日本へ上陸し、若い女性を中心に人気を集める紅茶専門店だ。 そういえば、このショッピングモールにもオープンしてたんだっけ。 平日の夜にも関わらず、数人が列を作っている。週末はもっと並んでいそうだ。 「紅茶、お好きですか?」 隣からふと及川の声がする。 「えっ、あ、はい。普段コーヒーの方が多いですけど、たまに飲みたくなりますよね」 「では、少し寄り道していきましょうか」 「及川さんもここ気になってたんですか?」 「はい。一人では勇気が出なくて」 「ははっ、確かに近寄りがたいですよね」 若い女性客に紛れて、若干浮いている気もする男二人、列の最後尾に並ぶことにした。 待っている間に選んでおくように言われ、一緒にメニュー表を眺める。 王道のアールグレイやダージリン、カモミールなどは勿論、 期間限定のフレーバーティーや日本茶なども取り揃えているようで、目移りしてしまう。 「うわ〜、悩みますねこれ。及川さんどれが気になりますか?」 「んー。このロイヤルミルクティーなんか良さそうですね」 「おっいいですね!俺もこれにしてみよっかな」 「では、決まりですね」 遥希が返事をするより早く、及川はレジ前に立ち、すっと注文を済ませる。 「ロイヤルミルクティーを2つ、ホットでお願いします」 「店内でお召し上がりですか?」 「テイクアウトで」 「かしこまりました、受け取りカウンターでお待ちくださいませ」 サクサクと注文を済ませ、二人分の会計を済ませてしまった。 「及川さんっ、注文ありがとうございます」 慌てて財布を取り出すが、及川は手をひらひらと振った。 「いえ、ここは払わせてください。御礼です」 「何のですかっ!俺何もしてないのに」 「ロイヤルミルクティー2点でお待ちのお客様〜こちらへどうぞ〜」 結局代金は受け取ってもらえないまま、ミルクティーを受け取り店を出る羽目に。 「及川さんお金っ」 「俺が飲みたかっただけなのでいいんです。それよりほら」 手渡されたミルクティーは温かく、冷えた指先に心地いい。 「うわあったかい…」 「味はどうです?」 「ん…うまっ!」 促されるまま口に含んだミルクティーは、上品な甘さで香り高く、一気に全身があたたまる気がする。 「…うん、美味しいですね」 「及川さんって意外と甘党なんですね」 「ストレートティーはあまり飲まないんです。それに今日は肌寒いから丁度いいですね」 ふと、及川の「ホットでお願いします」の声を思い出す。 「あっ…えっもしかして俺のために?」 「…勝手に頼んですみません。心配だったので何か温かいものをと思って」 確かに、事前にアイスがいいかホットがいいかは聞かれなかった。 遥希に対しての気遣いに、ようやく気がついた。 「そこまでしていただいて…ありがとうございます。及川さんってほんとスマートですよね、色んなことによく気がつくと言うか」 「そんなことないですよ。誰に対してもという訳ではないし」 「少なくとも俺はそう思います!おかげさまでポカポカになりました。ごちそうさまです!」 「それは良かった」 なんてことないような言い方をしつつも 若干照れくさそうに微笑む及川に、遥希も笑みを返す。 まだほんの少し冷えが残る指先へ、息を吹きかけてあたためようとした、その時ーーー 「…くっさ」 「え?」 「めっちゃくさい何だこれ!」 指先から生臭い匂いが漂い、思わず顔を顰めて立ち止まる。 クンクンと匂いを嗅ぎ思考を巡らせると、すぐにピンときた。 「…あっ、さっきエビ触ったからか!」 「ほんとだ。匂いますね」 先ほどエビを調理した際に、匂いがついてしまったようだ。 及川も自分の手元を嗅いで同じ反応をしている。 「皿洗いもしたし、手も石鹸でちゃんと洗ったのになー。明日まで匂うのかな」 「手袋するべきでしたね」 「確かに、他のグループは着けてたかも…」 初めての工程で緊張し、あまり周りを見れていなかったが、そういえばみんな手袋をしていたような気がーー。 「全然気づかなかった。及川さんにも匂いついちゃってすみません」 「いえ。良いお土産になりました」 「これが…?」 「はい。家に帰ってからも、今日のこと思い出せそうですし」 「…ははっ、嫌じゃないなら良かったですが…」 しきりに指先を嗅ぎながら、なぜか嬉しそうな及川を不思議に思いつつ 遥希も気を取り直して、残ったミルクティーの味と温もりを楽しんだ。

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