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討伐部隊結成の歴史

ノエル達が住む、パラビナ王国は、三日月の形をした大陸と、小さな島から構成される。 4つの地方に区分けされており、大陸の中心には王都エンペラル、海側の地方をオラクル、山側の地方をルノールと言い、三日月型の大陸の内側、曲線部のちょうど真ん中あたりに、タースルという別名、星島という小さな島があった。 オラクル地方の豊富な海産物、ルノール地方の緑豊かな森林資源、高度な魔術で形成された王都エンペラルを有するパラビナ王国は、諸外国の中でも一目置かれる大国に違いなかった。 しかし、今からおよそ100年前、当時の国王陛下が乱心の末、パラビナを守る精霊が住む、カンファールの大樹を切り倒そうと試みた。 その愚かとも呼べる試みは、大樹の幹に鉄槌を喰い込ませ、大きなヒビを作ったが、カンファールの大樹を倒すまでには至らなかった。 カンファールの大樹を守る精霊の長は、この行いに失望し姿を消した。精霊の加護をなくしたカンファールの大樹に、病魔ウィルスが襲いかかり、カンファールの大樹はウィルスに侵されてしまった。 パラビナ王国の聖樹とよばれたカンファールの大樹が病魔ウィルスに侵されたことで、大陸に生える他の木々も影響され、次第に王国の森林は病魔ウィルスに侵され、人々が立ち入ることができなくなってしまった。 病魔ウィルスは、魔物をおびき寄せるため、一層立入を制限されることになった。病魔ウィルスの濃度や出現する魔物のレベルで区分され、病魔ウィルス立入制限区域レベル1〜10(危険度1 < 10)として管理された。そして現在では、立入制限区域に指定される森は国土の森林の三分の一を占めるようになっていた。 この病魔ウィルスは、パラビナ国民の身体にも影響を及ぼす。 パラビナ国民は皆、生まれながらに魔力を保有している。魔力の大小は人によって様々であるが、魔術を使うことで、怪我や病気を治したり、水や火など生活に欠かせないライフラインを確保して暮らしている。 しかし、等価交換の法則が働いているのか、魔力をもって魔術を使えば、病魔ストレスを抱えることになる。このストレスが小さいうちは、自覚症状なしに軽減されたり解消されたりするのだが、ストレスの値が大きくなると、魔術では治せないほど症状が悪化し、手足が動かせなくなったり、身体の一部が壊死したり、最悪死に至ることもある。 この病魔ストレスの軽減・解消に効くのは、『聖樹の葉』と呼ばれる、精霊の加護がある聖樹の樹に生える葉っぱである。カンファールの大樹が病魔ウィルスに侵されている現在、聖樹の樹の発現は非常にレアとなっている。 聖樹は、魔物が生息する病魔ウィルス立入制限区域内でウィルスに侵されることなく生えていることが多く、そのような樹から採取される聖樹の葉は良質で効果が高いと言われ、多くの国民の治療に役立てられている。 そこで、魔物を駆逐し、聖樹の葉を採取するという国の重要任務を遂行するため、魔物討伐部隊が結成された。 討伐部隊結成以来、立入制限区域レベル5以上に派遣されることがなかったが、聖樹の葉が枯渇している現状、国王の強い声から、今回、山の地方ルノールの北東部に位置するレベル6の制限区域に討伐隊が立ち入ることになったのである。

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