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食べさせてあげたい ※リッツェン視点
(いた…!)
リッツェンは物資保管庫の裏のベンチに座って本を読んでいるノエルを見つけた。
二人分のランチを入手した後、昼休憩中にノエルを探しに、食堂や救護室などを探してみたが、どこにもノエルの姿は見当たらなかった。
深緑色のマントつけた新人らしき他の治療士から、物資保管庫のあたりでお昼をとっているとの情報をもらい、まさかそんなところに…と思いながらも向かうと、本当にノエルがそこにいた。
暑かったのか、緑色のマントを脱いで、長袖のシャツの袖を肘の少し上あたりまで捲っていた。
日に焼けていない細い白い腕が日光に晒されている。
(あーあ、日焼けしちゃうよ…)
そんなことを思いながらリッツェンはノエルに近づいた。
「ご飯は?食べたの?」
ノエルは突然現れたリッツェンに声をかけられ、驚いて本を手にしたまま立ち上がった。
「ロッ、ロイスタイン隊長…」
「いいよ、座って。ここ、いい?」
リッツェンはノエルを座らせて自分もノエルの横に腰を下ろす。
リッツェンはさりげなくノエルの持ち物をチェックする。食事をとった形跡が無いことわかると、持ってきた箸とランチボックスをノエルに渡した。
「ちょっと確認したいことがあって。お昼も持ってきたんだ。一緒に食べよう。」
「ありがとうございます…?」
ノエルは何だろうと思いながらも、渡されたランチボックスを受け取る。
(あー、驚いている顔、めちゃくちゃ可愛いな。薄茶色に緑の…ヘーゼルナッツの瞳がこっち見てる。ずっと見てられるかも…)
リッツェンの視線に耐えられなくなったノエルはたまらず質問する。
「あの…ロイスタイン隊長は食べないんですか?」
「ん…?ああ、食べるよ。ノエルも食べて。」
そう言ってリッツェンが食べ始めるとノエルも、もう一度お礼を言い、食べ始める。
「ランドはほぼ平常通りに動けているみたいだね。あの傷が嘘みたいに消えて…ノエルのおかげだ。あの時にランドに飲ませたのは自作の特効薬?」
「はい、故郷の星島タースルで採取された聖樹の葉で、地産の材料を使用して精製しました。実家の父にはよく効いたので、咄嗟にランドルフ隊長にも飲んで頂きました。同じく効き目があってよかったです」
(|ラ《・》|ン《・》|ド《・》|ル《・》|フ《・》隊長ね…私のことは家名呼びなのに…)
リッツェンは、ランドルフのことを献身的に治療・世話をしていたノエルの姿を思い出していた。
(しかも、ランドの奴、手足が動くようになってからも、ノエルの気を引くために演技を…ご飯も食べさせてもらっていたな…ノエルにアーンしてもらうとか…腹立ってきたな…ランドの奴…)
ふと横を見ると、ノエルが甘く煮た栗を食べていた。あまり表情が動かないノエルだが、好きなものを食べている時はわかりやすいようだ。
「それ、好きなんだね。私のをあげる」
リッツェンは、自分のランチボックスにあった栗を箸で摘んでノエルの口元に差し出した。
「えっ、結構です。ロイスタイン隊長が食べてください」
「栗は苦手なんだよねぇ。あと、ロイスタインは、上の兄たちとも被るから、名前で呼んでほしいな」
リッツェンは微笑みながら適当に誤魔化しつつ、名前呼びもリクエストする。
「はい、口開けて」
ノエルは観念したように、口を開けた。すぐに甘い栗が口に運ばれる。
「美味しい?」
「…おいしいです…」
(照れてるのかな?俯いちゃった。可愛い…。私は、どちらかと言うと、こうやって手づから食べさせたいな。甘やかしたい。)
「ラボは…行った?」
リッツェンは一番聞きたかったことをノエルに、尋ねた。
「あっ、えっと…」
ノエルが何かを言いにくそうにしていることで、何かあったのだとわかる。自分の部隊の人間が、ノエルに何か言ったり、妨害したのかもしれない。
「嫌なこと言われたりした?ごめん、すぐにノエルがラボを使えるように、話を通したつもりだったんだけど…」
「いえ、全部自分のせいで、タイミングもきっと悪かったので、大丈夫です。その…リッツェン…隊長に頼んだのも、少し、ズルだったかも…これ、返します」
ノエルは横に置いていた、深緑色のマントのポケットから、ラボに出入りが許される銀色のピンバッチを取り出し、リッツェンに差し出した。
はじめて名前を呼ばれて嬉しいはずなのに、あげた物を返されたというショックの方が先にくる。
「うーん…何があったのか無理には問いたださないけれど、ノエルには、時間があるなら、また特効薬の精製をお願いしたいと思っていたんだ。だから、隊長としての命令。まだ持ってて。」
ノエルは本当はラボで薬の精製や、ヒュドラの毒の研究もしたいのだろう。リッツェンは、ノエルのピンバッチを持つ手をぎゅと握る。
「…ランドの件のようにまたノエルの力が必要になることがあると思う。だから、頼って欲しいな。これでも結構仕事はできるよ?」
リッツェンが最後にわざとに軽くふざけた口調にすると、ノエルはわずかにふっと笑った。
「わかりました。僕にできることはなんでもやるつもりです。そのためにここに来たんです。僕を使ってください」
(笑っ…たぁ〜!可愛い…)
リッツェンは、一瞬ノエルを抱きしめたい衝動にかられたが、ぐっと堪える。そして、先ほどから、自分たちをのぞき見ている数人の視線に気づいていた。どうしていこうか…そんなことを考え始めながら内心名残惜しく思いつつ、ノエルの手を離したのだった。
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