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経験不足

ノエルはランドルフにキスをしながら、自分の魔力を少しずつ送った。 魔力の交換は、体液の交換によって効果的に行うことができる。ただ、唇を重ねているだけでは、僅かな魔力しか送ることができない。 「ん…」 ノエルは、軽く声を漏らしながら、ランドルフの唇を食むように深く口づける。ランドルフからも、魔力がノエルに送られる。2人の魔力が、お互いの身体で混ざり合って、温かいお湯に身体全体が包まれているような心地になる。 ランドルフは、それ以上なかなか進まないノエルを導くように、舌を動かす。ノエルの上唇をなぞり、下唇を軽く食んだ後、ノエルの小さな口の中にそろそろと舌を潜り込ませる。 「っ…はぁっ…」 突然侵入してきたランドルフの舌に、息継ぎのリズムを狂わされる。先ほどの身体がぽかぽかと温まるような感覚ではなく、頭の芯が痺れるような刺激が襲う。ノエルは身体をびくっと震わせる。 ランドルフは、翻弄されているノエルを優しく導くように、そして時々少し追い立てるように、舌を動かし、ノエルの舌を吸ったり口腔をくすぐるようになぞった。 「はんっ…あっ…」 ノエルは必死に息継ぎをする。 次第に2人の唾液が音を立てる。 ちゅっちゅっと、ノエルの口の端から溢れる唾液を舐め取りながら、ランドルフはノエルに声をかけた。 「ノエル…大丈夫か…?」 ノエルは、ぽーっとしながらランドルフを見つめる。口は少しまだ開いたままだ。魔力の交換は、性行為の時の快感と同じ刺激がもたらされる。 イスタは、まるで事後のように力が抜けたノエルの様子を見て、口元を抑えて顔を赤らめた。 メイは腕を組んで、2人の魔力を観察していた。ランドルフは統合部隊随一の魔力量を持つ。本来ならば、ランドルフから大量の魔力を送られれば、あっという間に魔力過多となり、重度の病魔ストレス症状が出てしまう。 しかし、ノエルはランドルフの魔力を全て受け取ってなおかつ、自分の魔力もランドルフに送っていた。魔力の交換にもキスにも慣れていないノエルだが、慣れれば、より強力な治癒魔術や、病魔ウィルスに対する免疫力などを施す治療術が可能かもしれない。そんな考えが、メイの頭を巡った。 ランドルフも、ノエルが自分の魔力を全て受け取ったことに改めて驚きながらも、ノエルの経験の浅い慣れていない可愛らしい様子を堪能していた。 理性を持って押し留めているが、許されるならば、このまま押し倒してもっとノエルの身体の深いところまで入り込んで魔力の交換をしたいという欲望にかられる。 「…っ、はい、大丈夫です。失礼しました」 ノエルは、はっと意識を戻し、ランドルフに下ろしてくださいとお願いをする。前回ランドルフと魔力交換をしたときは、主に自分の魔力を送るだけだった為、今回のような身体の中心が熱く火照るような刺激は起こらなかった。 ノエルは、失敗した…と、不安げにメイの方に視線を向けた。 「お前の能力はわかった。今回の特別機動部隊の帯同については…検討する。正直、経験不足が否めない感があるからな。使えるかどうか…他の戦略と併せて見極めていく必要がある」 メイはノエルにそう伝えると、ノエルに近付く。そして、ノエルの肩に手をおいて、屈みながらノエルにキスをした。 「ん…!!」 ノエルは目を見開く。メイの閉じられた瞳がすぐにそこにあって、銀色のまつ毛がキラキラと光る。 すぐにメイの魔力がノエルの身体の中を巡り、ランドルフとの魔力交換で僅かに溜まったストレスを消していく。簡単そうにみえるが、僅かなストレスを探ってそれを解消するという高度な治癒魔術だった。 ちゅっと音を立てて、メイは、唇を離した。 「これくらいで、ぽーっと意識飛ばしてるようじゃ…現場では使えねぇんだよ」 突然のキスで、自分の魔力を上書きされたランドルフはむっとしてメイに声をかける。 「その治癒魔術は、俺が今からノエルにしようと思ったんだけど」 「ランドは治癒魔術は得意じゃねぇからな。俺の方が早いし確実だ」 フフンと、メイは得意げな目でランドルフを見る。ランドルフは、本当のことだったのが、くっ…と言葉に詰まる。 イスタは、急に学生のノリのように軽口を叩き合う隊長達2人を眺め、約得?据え膳?ズルいよなぁ…と思っていた。そして、同時にノエルの魔力に強い興味を持っていた。 ノエルはというと、ランドルフの強い魔力と、メイの治癒魔術に圧倒され、経験不足と、実務レベルの格の違いに密かに打ちのめされていたのだった… ***   (やられた…!!) ノエルがメイの執務室から退出した後、研修を受けていた部屋に戻ると、荷物を預けるためにノエルが使用していたロッカーが少し開いていた。 不審に思ったノエルは中にある自分の荷物を確認すると、大事な…第2討伐部隊のラボを使用するためにリッツェンからもらったピンバッチが無いことにすぐ気づいた。そして、ロッカーのドアにはメモ紙が貼り付けられていた。 『返してほしければ、第2武器収容庫に来い』 そして…ノエルは、もっと信じられないことに気づいてしまった。 ロッカーには、最近の嫌がらせもあって用心して通常の鍵と、そこまで難しくはないが念の為簡単に解錠できないように魔術をかけていた。 それを解除して、ロッカーを開ける為には、魔術を使用しなければいけなかったはずだ。 魔術を使用した痕がある。 「どうして…?」 「何してるのさ」 後ろから声をかけられ、ノエルは勢いよく振り返った。 そこには、新人治療士コニー・ユーストマが怪訝な表情を浮かべノエルを見ていた。 「ううん…何でもない」 ノエルはコニーを部屋に置いて、第2武器収容庫に向かった。

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