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同期だから 2

エミンは、銃を下ろすと、がくっと膝から崩れ落ちる。銃の固いところ、銃身の部分で攻撃して失神させたようだ。 治療士なので、力加減と打ち所は心得ていた。エミンは、震えながら絞り出すように声を出した。 「リンデジャック君が、あの日…ロイスタイン隊長と物資保管庫でお昼を一緒にとって話してた日、本当は隠れて見てたんだ。 もしかしたら、特別機動部隊への任命を裏でお願いしてるんじゃないかって思った。新人治療士が2名以上任命されることは普通ないって聞いていたし、君が任命されるなら、俺は…多分帯同できないと…。 特別機動部隊に任命されたら、高額な手当がでる。俺にはそれが必要で…でも、何を話しているかは聞こえなかった。 仕方なく戻ったところで、この先輩治療士が、声をかけてきたんだ。不安なことを全て話してしまった。そうしたら、先輩が、いい考えがあると言って…第2部隊の、ロイスタイン隊長に心酔してるグループに、リンデジャック君の噂を流した」 「噂の出どころって、この狂った先輩治療士なの!?」 コニーは驚いて声をあげる。 そして、恐る恐る失神しているその先輩治療士を見る。息はあるようだがまだ意識を取り戻していない。 「俺のせいで、リンデジャック君への嫌がらせが始まったのに…言い出せなくて…どこかで、この噂のせいで君が任命されなければ、自分が選ばれるチャンスはあるかもって…一瞬思ったんだ。 ごめんなさい。でも、今日の談話室の様子を直接見てしまったら、こんなの違うと思って。先輩治療士にやめましょうと話をしたんだ。 でも、先輩はひどく動揺していて…嫌がらせをしていた討伐第2部隊の魔術士たちが、除隊になったとかで、自分も同じ状態になると考えたみたい。リンデジャック君も巻き添えにして、全部終わらせると。毒針でおどされて、君のロッカーを開けたのは俺だよ」 ノエルの使用していたロッカーから、エミンの魔術の痕が残っていた。 それがあったから、ノエルはすぐに報告するのを躊躇ったのだ。 エミンは、裕福ではない平民の家庭で育った為、自力でお金を貯めて王立魔術師団学校に入学し、さらに生活の為に働きながら学校に通ったらしい。年齢もノエルより10歳も歳上と聞いて最初は驚いた。 一方、ノエルは、タースルという王都から遠く離れた小さな島で育ったが、養父は名門貴族の出身で一通りの財を持ち、なおかつ師団長であった功績の蓄えもあった為、小さい頃から金銭的に苦労することには皆無であった。 自分には到底想像もできない苦労と努力を重ね、新人治療士として配属されて、今日まで熱心に仕事に励んでいたエミンの姿をノエルはすぐ側で見ていた。そんなエミンが、こんなことをするなんて信じたくなかった。何か理由があると思いたかった。 項垂れて、床を見つめて苦しそうに全てを打ち明けたエミンに、ノエルは近づいた。エミンの肩に片手を寄せる。 「…話してくれて、ありがとう。僕だけへの嫌がらせはどうってことない。ただ…この状況は危険だ。どうにかしないと…」 ノエルは、痛みが増している右腕を抑えながら、辺りを見回した。 「これ…使えるかも!!これで一旦、このクレイジーな先輩を拘束しちゃおう」 コニーは、細いロープを見つけて持ってきた。 ロープを持って失神している先輩治療士に近づこうとしたところで、ピタッと止まる。 「えっーと…もしかしてこの場合、僕が結ぶべき…だよね?」 先輩治療士を横目で見ながら、コニーはノエルとエミンに尋ねる。怖くて近寄りたくないと顔に書いてあった。 いつ目を覚ますのかわからない以上、近付くのは危険だと思ったノエルは短く息を吸う。 毒のおかげで大分魔力が失われていたが、このくらいなら…と、魔術を使ってロープで先輩治療士の手足を素早く拘束する。 「…無詠唱で!?すごっ…」 「物理的な魔術はあんまり得意じゃないんだ。僕は本当は魔術騎士になって討伐現場に入りたかった。でも、王立魔術師団学校に入学した時、適性が無いから無理だと言われた…あれはショックだった」 突然のノエルの告白に、エミンとコニーは唖然とする。 「魔術騎士になりたかった…?」 「嘘でしょ…」 魔術騎士は、身体的な特性が必要で、屈曲な体躯か、体力が無いと基準をクリアできない。身長の規定があり、ノエルは20センチ以上足りない上に、体術などの攻撃や防御を行う武術も会得している必要がある。小柄なノエルにはそんな才能はもちろんなかった。 「成熟した聖樹を探したいんだ。そこに住み着く聖霊に会ってみたい。討伐現場に行かないと直接見ることができないから、治療士になったんだ。魔術士じゃ現場には行けないって聞いたから。父にも、僕の魔術は特性的に治療士に向いてるって言われた」 そこまで話してノエルは、ぎゅっと右腕を抑える。痛みも麻痺も強くなってきた。 エミンも足をずっと押さえている。自力で動くのも、もう難しそうだ。平気そうにしているが、エミンの顔からは、つーっと細い汗が流れている。 その様子に気づいたコニーは、申し訳なさそうに声をかける。 「…その、ごめん…。2人が毒針を受けたのは、僕のせいでしょ…」 いつもの強気な態度と違い、急にしおらしくなったコニーに、ノエルとエミンは思わず顔を見合わせる。 コニーは自分でも気まずくなったのか、2人から目線をずらして、話を続けた。 「僕は…治療士にギリギリのところで合格できた。魔術のレベルは底辺。兄弟の中で、僕だけがひ弱で、力も魔力もない、落ちこぼれって言われてきた。 家族からは、ユーストマ家の恥だって…顔立ちだけは整ってるから、有力貴族か、王家に取り入って妾か側妃にでもなることしか、家の役に立たないって言われてる」 自嘲しながら、2人から顔を背けコニーはじわりと滲む涙が床に落ちないように、目を擦る。 ユーストマ家は、王都エンペラルに屋敷がある、それなりに名のある貴族であった。 パラビナ王国では、男同士など同性の結婚が認められている。一部の貴族の間では、家同士の関係性強化の為、正妻を迎えて後継ぎを産ませた後、争いの種にならないように、妾として見目の良い男子が娶られることがある。 もちろん、そのようなことを気にしない貴族もいて、同性同士の結婚や、複数婚も普通に行われている。 「リッツェン殿下の側妃になったら、両親や兄弟に認めてもらえるかも…って、そんなくだらない考えを持ってるやつなんて、誰にも相手にされないよね…」 そんなことわかってる…とコニーは独り言ちる。 ノエルはそんなコニーに声をかけた。 「…前に、聖樹の採取で戻ってきた魔術騎士の治療をした時があったよね。その時、魔術騎士が古い傷だからって言ってた手の甲に変色して爛れた昔の火傷の痕を、綺麗に戻してあげてたの見てたよ。 すごいなって思ってた。あれ、今度どうやってやったのか教えて欲しい」 コニーは、急に治療魔術の話を持ち出しだして、真剣な顔で言うノエルに、思わず笑い声をもらした。 「ふっ…あんたの魔術バカの様子見てたら、何に悩んでのかわかんなくなっちゃうよ。そんな的外れなこと言わなくていいから『コニーは可愛いから大丈夫だよ』くらい言ってよね」 いつもの強気な調子を取り戻したコニーの様子に、3人は笑い合う。 「リンデジャック君は…どうして俺を庇ったの?君くらい頭が回るなら、真っ先に報告したはずだ。俺の魔術痕は見抜いていたよね?」 エミンは、ノエルに尋ねた。 「…だって、僕たち同期だから。」 ノエルの答えに、エミンもノエルも、目をパチパチと瞬いた。普段表情があまり変わらないノエルが少し照れくさそうにしていたからだ。 「あー、もう。対抗意識がどっか行っちゃったよ。とにかく、ここから出ないと!作戦考えよ。僕たち同期なんだから…力を合わせないとね」 コニーがそういうと、ノエルとエミンは微笑みながら頷いた。

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