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お仕置き1
魔物討伐部隊の拠点の第2武器収容庫の扉が爆破されたと、現場は一時騒然としていた。
ノエル達新人治療士は、テロまがいのことを企て、収容庫にある火薬を使ってノエル達を巻き込み自害しようとしていた先輩治療士のことを説明した。
先輩治療士は、まだ完全に意識を取り戻していなかったが、病魔ストレス症状がひどく、精神状態もよくないことから、一旦専門の治療機関に移送されることとなった。
もちろん、ここ最近のノエル・リンデジャックへの嫌がらせの主犯だったこともあり除隊は免れない。
新人治療士エミン・グスタフも病魔ストレス症状が酷く、毒針による攻撃も受けたことから、すぐに救護室へ運ばれることとなった。
今回の嫌がらせの一件に直接は関わっていないことと、先輩治療士のテロ行為を防いだことを理由にノエルがエミンを庇ったことから、処分は無しとされた。
同じ新人治療士であるコニー・ユーストマも、テロ行為を未然に防ぎ、同僚を治療したことが評価された。
エミンに付き添って、救護室で休息をとるようにと命じられた。
一方ノエルは嫌がらせの被害者でもあり、テロ行為を未然に防ぎはしたものの、第2武器収容庫の扉を爆破して吹き飛ばすという事態の実行者として、討伐第2部隊隊長リッツェン・ロイスタインの執務室に連行されていた。
***
「この、アホ新人!!ドアが、開かないからといって吹き飛ばす奴がいるか!!」
討伐第3部隊隊長メイ・ホルンストロームの怒号が執務室内に響く。
肩までの銀髪をハーフアップにして、ルビー色の瞳を持つ美麗人は、怒るとなおさら迫力があった。
執務室のソファーに座らされたノエルは思わず身を縮こませる。「申し訳ありませんでした…」と小さい声を出す。
「メイ隊長の言う通りですよ。治療士が討伐部隊の収容庫を破壊するなど、前代未聞です」
リッツェンの側近でもあり、魔術士でもあるフェルナン・ルシアノが眼鏡のフレームを押さえつけながら、小言を口にした。煉瓦色の髪の毛をゆるく三つ編みにして、丸い眼鏡をかけている。
「ったく…中にある大量の火薬に引火でもしたら、拠点の半分以上の施設が吹っ飛ぶ大惨事になるところだ」
「それはっ…そうならないように魔術式で計算はしてました」
呆れながらメイが言った言葉にノエルは思わず言い返す。
メイはルビー色の赤く輝く瞳を鋭く光らせる。
「生意気なこと言うじゃねーか…」
ノエルは、はっと口を両手で抑える。再び「申し訳ありません…」と小さな声をだした。
その間、ずっと執務机について、軽く手を組みながら静観していたリッツェンが口を開いた。
「…とりあえず、ランドのところ討伐第1部隊の魔術騎士達に、扉の復旧を頼んである。あそこは体躯が優れている騎士が多いから…フェルナン、君は建材など必要なものが調達できるように、ランドをフォローして」
リッツェンから指示を受けたフェルナンはすぐに「承知しました」と機敏に対応をして執務室を出ていった。
リッツェンは、ちらりとメイに視線を向ける。メイはその様子をみて「うっ」と珍しく若干たじろいだ。
「…んだよっ。まだあのこと怒ってんのかよ」
「君が、私を仲間外れにしたんだよ?」
リッツェンは、にっこりとメイに微笑む。
ノエルは、そのリッツェンの表情に謎の悪寒を感じた。
「メイには、このことを国に報告をしてもらおうかな」
「…またその役回りかよ…」
リッツェンの言葉にメイが、額に手を置いた。
「上手く報告しておいてね?統制がうまくとれていないなんて思われると、遠征部隊の入れ替えが行われる可能性があるから。メイなら適任だよ」
リッツェンにそう言われ、メイは、小さくなっているノエルをギロリと睨んだ。
「余計な仕事を増やしやがって…。ん…?しかも、お前魔力をほとんど使い果たしてやがるな」
ノエルはもともと魔力の量が多い。
高度な魔術を使うと病魔ストレスをためることになるが、病魔ストレスを可視化して捉えることができるノエルは、普段からストレスを溜め込まないように適度に自分で上手くコントロールしていた。
今回は、派手に魔力を消費した上に毒を受けたこともあり、ノエルにしては珍しく軽度の病魔ストレスを発症していた。
「おい、リッツ、この坊ちゃんに討伐部隊の現場で無茶したらどうなるか教えてやれ。…甘やかしは不要だ」
メイはリッツェンにそう言い残すと、報告するために執務室を出ていった。
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