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魔力ではないもの
「うーん…」
ノエルは喉の渇きを覚えて、目を覚ました。
パチパチと瞬きをして、見慣れない天井を眺める。
普段自分が寝起きしている宿舎とは異なる景色に「どうしてこんなところで寝てるのだろう」と気付く。
やがて鈍った頭がはっきりしてくると、段々と記憶が戻ってきた。
この国の第3王子であり、討伐第2部隊隊長リッツェン・ロイスタインの執務室で、《《お仕置き》》という名の治療をしてもらったのだと思い出す。
何度も|魔力の交換《キス》をされ、自分から、もっとしてと強請って、そして、最後には…リッツェンの手によってイかされてしまった…ところまでを一息に思い出す。
「ぼっ、僕っ…なんてこと…」
ノエルは勢い良く起きがった。
「あっ、もう起き上がれるんだね」
リッツェンが、部屋のドアを開けて入ってくる。手にはコップを持っていた。
「リッツェン隊長!」
「もう少し声を落とそうか。今は夜中だよ」
声をあげたノエルに、しぃーっと、指を口元に当ててリッツェンは微笑んだ。
金髪の軽くウェーブがかかった髪がさらりと揺れる…そんな仕草を一つとっても高貴な佇まいを感じさせるオーラを放っていた。
「はい、これ飲んで」
タイミング良く水の入ったコップを差し出され、ノエルはありがたく受け取り、言われた通り水を飲んだ。
「…あの…ありがとうございます。隊長に治療して頂いて…そして、その…あんなことまで…」
ノエルは申し訳なさそうに、リッツェンにお礼を言う。リッツェンは、軽くふふっと笑う。
「ノエルは魔力の量が多いからね。魔力の交換の相性が良いというのもわかった。最後のは…治療の一環だったから…気にしないで。ね?」
ノエルは恥ずかしさのあまり「ありがとうございました…」と、消え入るような小さな声でお礼を言う。
「ただ…あの治療は、ノエルにしかしない。この意味は、きちんとノエルにはわかって欲しい」
リッツェンのアクアマリンの瞳が真っ直ぐにノエルを捉えた。
「…はい…?」
ノエルはリッツェンの言葉の意図がわからず、間の抜けた返事になる。リッツェンは、ノエルに伝わらないことは予測していたとでも言うように、さらに言葉を続けた。
「いいよ、今はわからなくても。これから時間をかけて…わからせてあげる」
そう言ってリッツェンは、ノエルの額に軽くキスをして、そっとノエルに魔力を流す。
「今日はこのまま、ここで寝ていくといいよ。お休みなさい」
ノエルの額から、身体中に温かな魔力流れる。
そして、ノエルは胸に魔力ではない何か別のものがじんわりと沁み込むような感覚を覚えた。
「…おやすみ…なさい」
ノエルは先程感じた未知の感覚に戸惑いながらも、リッツェンにそう返事をしたのだった。
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