35 / 63

踊れません 1

「無理ですっ…踊れません!!」 ノエル・リンデジャックは青いを通り越して白い顔になりながら、首を激しく振った。 ベテラン治療士数名が、そこをなんとか…とノエルを宥める。 「リンデジャック君…僕ら治療士が激励賞を獲得するには、これしか方法がないんだ…」 ノエルは、同じ新人治療士のコニー・ユーストマ、エミン・グスタフと一緒に、研修を受けた後、ベテラン治療士達に、壮行会について説明を受けていた。 壮行会とは、魔物討伐部隊が病魔ウィルス立入制限地域などの危険な場所に進行する前に、催されるイベントで、隊員たちの士気を高めたり、チームワークの強化を目的として開催されるとのことだった。 その壮行会では、新人や若手が、魔術騎士・魔術士・治療士の職種に分かれて出し物をして盛り上げることになっていた。 その出し物の中で、特別に企画が良かったものには、激励賞が贈られ、特別手当や休暇など、働いている隊員たちにとってみれば、喉から手が出るほど欲しい魅力的な褒賞を、その職種に属する全員がもらえることになっているらしい。 「力や魔術の知識やスキルなど、日頃は魔術騎士や魔術士に到底敵わない治療士ではあるが、今回、君たち3人という新人を得たことは僥倖だ!」 ベテラン治療士の説明に、一層熱が入る。 「だからって…踊れません…しかも、この衣装は一体…?」 ノエルは目の前に広げられた3組の衣装を見て、愕然とする。 それは、由緒ある貴族の家などで、使用人に着させるお仕着せであった。所謂メイド服である。 「こんなのどこから持ってきたんですか…?デザインも古いし…布地も良くない。僕これは着たくないなー」 コニーは、ベテラン治療士達が用意した衣装を寸評し、顔をしかめた。 「王都エンペラルの繁華街のような場所で、お仕着せをきた子が、お店でお酒を給仕したり、ステージで踊ったりする店が流行してる…って聞いたことがある…もしかしてそれを狙って…?」 エミンは先輩治療士に冷めた視線を向けた。 「うっ…二番煎じと言いたいのはわかる…でも、企画から練り直してる時間も無いし…」 エミンに思惑を読まれたベテラン治療士達は、しどろもどろに言い訳をする。

ともだちにシェアしよう!