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無事を願うということ 2
「いいか、壮行会っていうのはな、そうやって、隊員たちが互いの無事を願って行われんだよ。わかったか、新人」
ようやく、壮行会の意味を理解したノエルの様子をみて、メイは自身の威圧のオーラを緩める。
そして、自分で淹れた紅茶を、完璧な所作で口にした。
ハーフアップに結ばれたメイの銀色の髪が微かに揺れる。この口の悪い御人は、黙っていれば高貴な貴族然としていた。「いいから、飲めよ」とノエルにも紅茶を飲むように言いつける。
「…いただきます。…おっ、美味しい!…です」
ノエルが、メイの淹れた紅茶の味に感動していると、メイはフンっと笑いながら、ノエルに当然だと言いたげな視線を向ける。
「新人の時に、上司にボロクソ言われたからな。それまで茶なんて淹れたこともなかったから、悔しくて、見返すために研究してやった。おかげで店が出せるレベルになったぞ」
ノエルは、メイが喫茶店のカウンターに立っている姿を思わず想像してしまい、ふふっと軽く吹き出す。
「…ホルンストローム隊長が、喫茶店のマスターだなんて似合わな過ぎます」
くすくすと笑いがとまらないノエルの様子に、メイは口元をほんの少し緩める。だが、一瞬で表情を戻し、話を切り出した。
「呼び名は、メイでいい。それと、今日は特別機動部隊でのお前の役目について話したかった。」
ノエルはメイの改まった様子に、身を固くする。
「ただの治療士にはできない…役目だ。S級の魔物に遭遇する場合に備え、隊長クラスの聖剣使いに『魔力の交換』をしてもらいたい。俺は、間違いなく、この間のヒュドラかそれ以上の魔物が、この立入制限区域の奥地に潜んでいると踏んでいる。そのためにあらゆる準備を尽くしたい…誰も死なせない為にな」
メイは、聖剣使いとして魔術騎士の資格を持ちながら一方で非常に優れた戦術家でもあった。
「ノエル…お前にその役目を託したい。できるか?」
メイのルビー色の瞳が、ノエルのヘーゼルナッツ色の瞳を射抜く。ノエルの答えは決まっていた。
「ここには、その覚悟で来ました。引き受けさせてください」
「…わかった。詳細はまた知らせる」
ノエルは「わかりました」と答え、広げたままになったメイド服をたたみ直した。
「これも…新人の役目と思って受け入れます」
魔物討伐部隊の現場では、様々な役割があり、そこに意味がある。ノエルは、あらためて自分は部隊の一員であることを自覚する。
「………その長さのスカート、多分お前には似わねーぞ。変えた方がいい」
メイは衣装について一言物申すと、目を閉じて静かに紅茶を啜った。
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