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マウント? 1

ノエル・リンデジャックは、メイ・ホルンストロームと執務室で会話をした翌日、治療士の研修終わりに、新人治療士のコニー・ユーストマとエミン・グスタフを談話室に呼び出した。 ここの談話室は、職種問わず誰もが使えるようになっているが、夕方とあって時間的に食堂へ流れるため、使用している人がおらず、3人で話すのには丁度よかった。 丸テーブルに掛け、休憩室に備えられている冷たいお茶で喉を潤したタイミングで、ノエルはコニーとエミンに話を切り出した。 「昨日の壮行会の出し物の件なんだけど…引き受けようと思う。ただ…1人だとその…不安だし…2人とも嫌じゃなければ、一緒に出ない…?」 昨日は、子供っぽく嫌だとゴネてしまった手前、2人を誘うのに、気不味さが残る…ノエルはそんな気持ちで2人に恐る恐る尋ねた。 「ノエル1人だけ出させるわけないよ。俺も、もちろん一緒に出るよ」 「僕も、注目浴びるのは嫌いじゃないし、ノエル1人じゃ何を仕出すかわかんないから、一緒に出てあげるよ」 エミンとコニーは笑いながら快諾する。 そんな2人の様子にほっとしたノエルは「ありがとう」とお礼を言い、例の水色のメイド服をテーブルの上に広げる。 「この衣装なんだけど…昨日たまたま会って話したメイ隊長が、変えた方がいいって…なんかスカートの丈がどうのとか言ってたんだけど、2人ともどう思う?」 「えっ…!!メイ隊長が!?あの人、顔は恐ろしく綺麗だけど、オーラが怖いっていうか、見てるだけで緊張して息が詰まるっていうか…そんな人がこの衣装にアドバイスを…?」 コニーは口を押さえて驚きの声を漏らす。 「どうして隊長が衣装に意見したのか…真意は分かりかねるけど、激励賞狙いでいくなら、隊長とか他の役付の人達の意見は取り入れた方がいいかもしれないね。審査するのは、彼らみたいだし…」 そう話すエミンの意見にノエルは同意する。 そして、頷きながら2人に向き合う。 「やるからには、賞をとりにいくくらい本気出したほうが、本来の壮行会としては意味があると思う」 コニーは出し物について真剣に語るノエルを見て「なんで急にそんな真面目に考えてるわけ?」と若干戸惑っている。 ノエルは、お茶の入ったカップをギュッと両手で握り、心痛な面持ちで2人に告げた。 「…でも、僕、本当に踊れないんだ!!どうしよう…」   「…………ノエルちゃん、踊るの?」 突然声をかけられて、ノエル達3人は声がした方向を一斉に見た。 談話室の入口から、魔術士の証である黒いマントを纏った男がこちらに近づいて来る。赤いボルドー色の髪をセンター分けにしていた。 「………ニックっ!!!」

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